遺産分割における特別代理人とは? 選任手続きの流れや注意点を弁護士が解説

2021年05月17日
  • 遺産分割協議
  • 遺産分割
  • 特別代理人
遺産分割における特別代理人とは? 選任手続きの流れや注意点を弁護士が解説

日常生活の中で、家族間で利害が対立するようなことはあまり考えられないことだと思います。しかし、相続が始まると、家族同士であっても法律に従って遺産を分割していかなければなりません。

未成年の子どもや認知症の方などが相続人となるケースでは、家族以外の方が「特別代理人」として、その利益を保護しなければならない場合もあります。

この記事では、未成年者のために選任する「特別代理人」について、その役割や選任の方法などをベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、はじめに

令和4年4月より成年年齢が18歳に引き下げられます。

本コラムで解説する特別代理人にも大きな影響がありますので、遺産分割をめぐる情勢と合わせて解説します。

  1. (1)遺産分割をめぐる情勢

    名古屋国税局のまとめでは、令和元年に岐阜県、静岡県、愛知県、三重県で亡くなった方は15万6000人を超えました。

    また、全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割に関するトラブルは、一世代前の昭和60年は約6200件でしたが、令和元年は約1万5800件と約30年間で2.5倍の伸びをみせています。

    少子高齢化の進展とともに、権利意識の高揚によって遺産分割に関する紛争が増えていくことが見込まれています。

  2. (2)成年年齢の18歳への引き下げ

    成年年齢を引き下げる改正民法が令和4年4月1日に施行され、成年年齢は18歳となります。

    法改正により影響を受ける年齢区分についても整理しておきます。

    令和4年4月1日の時点で

    ① 18歳未満の方
    18歳の誕生日に成年に達します。

    ② 18歳以上20歳未満の方
    令和4年4月1日に成年に達します。

    ③ 20歳以上の方
    改正の影響はありません(20歳の誕生日が成年に達した日です)。


    また、女性が婚姻できる年齢も16歳から18歳に引き上げられます。
    なお、18歳未満であっても、法改正前に結婚をし、成年とみなされていれば(成年擬制といいます)、単独で遺産分割協議に参加できます

2、特別代理人とはなにか?

未成年者が相続を受ける立場となった場合、通常は親権者が未成年者に代わって手続きを行い、財産を管理します。

しかし、未成年者の利益を保護するため、親権者以外の大人が未成年者のために特別代理人として代理行為をしなければならないことがあります。

まず、特別代理人とはどういう制度なのか、その役割などを解説します。

  1. (1)法律により定められる法定代理人

    未成年者は、法律的な判断能力や、経済合理性にかなった意思決定をする能力が完全ではありません。

    そこで、親権者が未成年者の利益を代表して、未成年者の財産を管理することとされています(民法818条1項・824条)。また、未成年者が契約を結ぶなどの法律行為をする際は、親権者の同意が必要とされています(民法5条)。

    日常的にもなじみが深い規定ですが、法律により当然にそのような関係になることから、「法定代理」と呼ばれています。

    認知症などにより判断能力が著しく低下した方のために選任される成年後見人も、法定代理人の一種です(民法859条)。

  2. (2)利益相反の場合に必要となる特別代理人

    ところで、親子間やきょうだい間など家族の中でも、次のような場面では利益が相反することがあります。

    • 親子が共に相続人となった場合
    • 未成年のきょうだいが共に相続人となった場合
    • 親が借金をする際に子が所有している不動産に抵当権を設定する場合


    これらの場合に、親が子の法定代理人になると、子や一部のきょうだいが不利益を被る可能性があります。

    そこで、このような利益の相反が起きる場合には、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があるのです(民法826条)。

    特別代理人は、家庭裁判所で具体的に指定された権限の範囲内で、未成年者のために代理権を行使します。

    なお、成年被後見人と成年後見人との間で利益相反が生じる場合も同様に特別代理人が選任されます

    ただし成年後見人のほかに監督人が選任されている場合は、利益相反の場面では監督人が代理人となるため、特別代理人を選任する必要がないという違いがあります。

3、遺産分割において特別代理人が必要となるケース

相続人に未成年者が含まれる場合、遺産分割で特別代理人が必要となるのは、

  • 親子間で利益が相反する場合
  • きょうだい間で利益が相反する場合


の2つのケースがあります。
遺産分割のあらましと合わせて具体的に解説します。

  1. (1)遺産分割のあらまし

    相続分は、被相続人(亡くなった方)の遺言がある場合は遺言に従って配分しますが、遺言がない場合には、法律の規定により相続割合(法定相続分)が決まります。

    お金の貸し借りなどの債権債務は、法定相続分に従って直ちに相続人に権利義務が移転しますが、それ以外の財産は、法定相続分による共有の状態となります。

    この共有の状態を解消し、相続人が自由に利用したり処分したりすることができる権利として分割、帰属させることを遺産分割といいます。

    遺産分割は相続人全員で協議して合意しなければ成立しません。

  2. (2)親子間で利益が相反する場合

    夫婦と子(未成年)の3人家族で夫が亡くなり被相続人となった場合、妻と子が2分の1ずつを相続することになります。

    この場合、妻と子で遺産分割協議を行うことになりますが、一方の利益が他方の損失となる関係になることから、特別代理人を選任しなければなりません

    また、子にだけ相続放棄をさせて妻が遺産を独り占めする場合も同様で、特別代理人を選任が終わらなければ、相続放棄の手続きはできません

    なお、妻と子が共に相続放棄をする場合は、利益相反の関係にはならないことから、妻が法定代理人として子を代理することができます

    利益相反の有無は外形的に判断されます。実態としては子に借金を背負わせないための相続放棄であっても、行為の外形が利益相反に該当する場合には、特別代理人の選任は必要とされます。

  3. (3)きょうだい間で利益が相反する場合

    未成年のきょうだい2人以上が相続人となる場合、親権者はそのうちのひとりの法定代理人となることができますが、ほかのきょうだいには特別代理人の選任が必要となります。

    なお、相続放棄をする場合、

    • ① 親権者が相続人でないこと
    • ② きょうだい全員が相続放棄すること


    の条件を満たす場合のみ利益相反が起きないため、親権者がきょうだい全員の法定代理人として相続放棄をすることができます。

4、特別代理人選任の手続き

特別代理人選任は、未成年者の住所地にある家庭裁判所で手続きを行います

  1. (1)必要な書類・費用

    • 特別代理人選任の申立書
    • 未成年者と親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
    • 特別代理人候補者の住民票
    • 利益相反に関する資料(利益相反に関する資料とは、遺産分割協議書の案や、相続関係がわかる戸籍謄本などが考えられます)
    • 申立手数料・郵送料 2000円弱(裁判所によって異なります)
  2. (2)申し立てをすることができる人

    親権者・利害関係人
    未成年者は自分で申し立てをすることができません。
    利害関係人とは、未成年者以外の相続人などが考えられます。

  3. (3)手続きの流れ

    • 申立書など必要書類の提出
    • 家庭裁判所から質問への回答や追加資料の提出を求める書面が送付される
    • 回答や追加資料を提出
    • 特別代理人を選任する審判書(または申し立てを却下する審判書)が送付される


    これらの手続きに約1か月かかります。

5、特別代理人を選任する際の注意点

未成年者が相続人となる場合や特別代理人を選任する際に注意するポイントを解説します。

  1. (1)特別代理人選任まで1か月かかる

    相続が始まると、各種の手続きの期限なども意識して手続きを進めなければなりません。
    主要な期限などは次のとおりです。

    • 相続放棄、限定承認の期限(3か月)
    • 被相続人の準確定申告、納付の期限(4か月)
    • 相続税の申告、納付の期限(10か月)


    相続放棄は、借金の相続を避けたい場合には期限内に行う必要があるため、特に注意が必要です。

  2. (2)遺産分割協議案の内容は重点的に審査される

    特別代理人選任の手続きでは、遺産分割の内容が法定相続分からみて子に不利な場合には、家庭裁判所から必ずその理由を質問されることになるでしょう。

    養育費や住宅ローンの残債務の支払いを、実質親がすべて行う予定であることなど、合理的な説明ができなければ、申し立てが却下される可能性もあります。

    家庭によって事情は異なるので、どのように書けば認められるかというような基準はなく、家庭裁判所が個別に判断し審判することになっています。

    この審判に対しては、不服の申し立てができないので(家事事件手続法85条1項、172条)、却下された場合は白紙の状態からやり直すことになってしまいます

  3. (3)特別代理人となる方の適格性

    特別代理人となるのに特別な資格などは必要とされていません

    しかし、特別代理人は子の利益を保護するための制度なので、子の利益を代弁できるような親族でなければ、家庭裁判所が難色を示すことも考えられます。

    一般的には子の祖父母やおじ、おばなどが選任されるケースが多いようです。適任者がいない場合や、相続手続き全般のサポートを受けたい場合には、弁護士や司法書士に特別代理人を依頼することも可能です。

  4. (4)出生していない胎児も相続人となる

    相続においては、相続開始の時点(被相続人が亡くなった時)でまだ出生していない胎児も生まれたものとみなされることになっています(民法886条1項)

    ただし、死産であった場合は相続人ではなかったことになります(民法886条2項)。
    このため、胎児が相続人となる場合、相続人の人数が変わる可能性があるため、遺産分割協議をすぐには行わないケースもあります。

6、特別代理人選任に関して弁護士のサポートを受けるメリット

特別代理人選任手続きにおいては、

  • ① 遺産分割協議案の作成
  • ② 法定相続分と遺産分割協議案の内容に隔たりがある場合に合理的説明ができるか


が大きなポイントとなります。

特に遺産分割協議書案の作成にあたっては、子の利益も考えながら、法律に沿った説明を用意して家庭裁判所の理解を得なければなりません。

さらに、相続税には配偶者や未成年者が受けられる控除もあるため、控除を受けるために申告の期限も意識する必要があります。

特別代理人の選任は、相続手続きの中ではいわば下準備に相当し、遺産分割協議を成立させて、預貯金や有価証券、不動産などの名義変更を行う必要もあります

また、親族に特別代理人を依頼した場合、遺産分割に干渉されたり、資産の内容を知られてしまったりということで抵抗感があるかもしれません。

これらの点で不安がある場合は、弁護士など法律の専門家のアドバイスを受けたり、特別代理人を依頼したりすることも選択肢になるでしょう

7、まとめ

近しい方が亡くなると、遺品の整理にも手につかず、月日だけが過ぎていくということになりがちです。

しかし、未成年者が相続人になると、家庭裁判所での手続きが必要になる場合があり、余裕をもった行動が必要です。

ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスでは、相続問題のサポート経験が豊富な弁護士や税理士、司法書士がサポートするワンストップサービスを提供しています。

相続について不安があるという方はぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています