相続放棄は生前にできない! 代替え案と相続放棄の基本を解説
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裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に静岡家庭裁判所に新たに申し立てのあった相続放棄の申述の件数は、6907件でした。
親や兄弟と折り合いが悪いという場合には、将来発生する相続でもトラブルが発生する可能性があるため、生前に相続放棄をしたいと考える方も多いでしょう。
しかし相続は、被相続人である身内が亡くなることで開始します。したがって、被相続人が生きている間は、相続放棄をすることはできません。ただし、生前の相続放棄に代わる手段も存在していますので、それらを利用することによって相続放棄と同様の効果を得ることができる場合もあります。
今回は、生前の相続放棄に代わる手段と死後の相続放棄の注意点について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、生前に相続放棄はできない
生前に相続放棄をすることは認められていません。以下では、相続放棄の概要と生前に相続放棄ができない理由について説明します。
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(1)相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の遺産に関する一切の権利を放棄する手続きです。相続放棄をすることよって、借金や負債といったマイナスの遺産を相続する必要はなくなりますが、それと同時に現金、預貯金、不動産、株式などのプラスの遺産についても相続することができなくなります。
相続放棄は、被相続人に借金があるため相続をしたくないというケースや親や兄弟と折り合いが悪いため相続トラブルに巻き込まれたくないというケースで利用されることが多い手段です。 -
(2)生前に相続放棄ができない理由
相続放棄は、遺産相続をしたくないという人にとっては非常に便利な手段ですが、被相続人が生きている間は、相続放棄をすることができません。
民法882条では、「相続は、死亡によって開始する」と規定しています。そのため、被相続人が生きている間は、相続が開始しておらず、相続放棄をすることができないのです。
相続放棄の期限を定める民法915条でも、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内としており、相続放棄をすることができるのが相続の開始後であることを当然の前提としています。
2、生前にできる相続放棄の代替え案はある?
生前に相続放棄をすることはできませんが、生前の相続放棄に代わるものとして以下のような手段があります。
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(1)推定相続人の廃除
「推定相続人の廃除」とは、被相続人が相続人の相続権を失わせることができる制度です。
「推定相続人の廃除」と「相続放棄」のどちらも、相続人の相続権がなくなるという点では共通する制度です。一方、相続放棄は相続人の側から行う手段であり、推定相続人の廃除は被相続人の側から行う手段であるという点で異なります。
推定相続人の廃除は、被相続人の意思によって一方的に相続人の相続権を奪う手続きですので、以下のような事情が必要になります。- 被相続人に対して虐待をした
- 被相続人に重大な侮辱を加えた
- その他著しい非行があった
また、推定相続人の廃除をするためには、家庭裁判所に申し立てをして、裁判官に認めてもらう必要があります。
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(2)相続欠格
相続欠格とは、相続欠格事由に該当する相続人の相続権を失わせることをいいます。
相続欠格は、推定相続人の廃除や相続放棄と同様に、相続人の相続権を失わせることができるという点で共通しています。
しかし、相続欠格は、相続欠格事由に該当する事由があれば当然に相続権が失われるという点で、何らかの手続きが必要になる推定相続人の廃除と相続放棄とは異なる制度です。
相続権が失われる相続欠格事由としては、以下のようなものがあります。- 被相続人や他の相続人を殺したり、殺そうとした場合
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴しなかった場合
- 詐欺または強迫によって遺言行為(作成、撤回、取消、変更)を妨げた場合
- 詐欺または強迫によって遺言行為(作成、撤回、取消、変更)を強要した場合
- 遺言を破棄、偽造、隠匿した場合
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(3)遺留分の放棄
相続人には、最低限の遺産の取得割合として遺留分が保障されています。相続人の遺留分を侵害するような遺言書が残されていたとしても、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることによって、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。
もっとも、相続放棄とは異なり、遺留分については被相続人の生前でも放棄することができます。遺留分に関する争いに巻き込まれたくないという場合には、遺留分放棄することによって、そのような希望をかなえることが可能です。
ただし、被相続人から不当な影響を受けて遺留分の放棄をすることのないように、被相続人の生前に遺留分を放棄する場合には、家庭裁判所に申し立てをして、家庭裁判所の許可を受ける必要があります。
3、遺言書では負債の相続を拒否できない
遺言書を作成することによって、特定の相続人に対して遺産を渡さないことも可能です。しかし、被相続人に負債がある場合には、以下のような点に注意が必要です。
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(1)遺言書があっても債権者には対抗できない
被相続人の遺産を相続したくないという場合には、遺言書に自分に対しては遺産を相続させない旨の記載をしてもらうことによって、遺産を相続する必要はなくなります。
相続人には遺留分が認められていますが、遺留分の放棄をすることによって、相続人同士のトラブルから逃れることができます。
しかし、被相続人に借金があった場合には、遺言書による方法では、借金の負担からは逃れることができません。特定の相続人に対して遺産を相続させない旨の遺言書があったとしても、法定相続分に応じて被相続人の負債を相続することになりますので、被相続人の債権者からの請求に対しては、自分が遺産を相続していなことを理由に請求を拒むことはできません。
そのため、被相続人に負債がある場合には、被相続人の死後、相続放棄の手続きをとるようにしましょう。 -
(2)被相続人の生前に債務整理をすることも有効な手段
被相続人に借金がある場合には、被相続人の死後に相続放棄をすることによって、借金の負担から逃れることが可能です。
しかし、被相続人が生前に債務整理をすることによって、借金の相続を負わせることを回避できます。
債務整理には、任意整理、自己破産、個人再生といった方法がありますが、資産内容、負債総額、収支状況などによってどのような債務整理の方法が適切であるかが異なってきます。
最適な債務整理の方法を選択するためには、相続トラブルや債務整理の実績がある弁護士のサポートが不可欠となりますので、まずは弁護士に相談をするようにしましょう。
4、相続発生後に相続放棄をする場合の注意点
相続発生後であれば、相続放棄をすることによって、相続に関する一切の権利を放棄することが可能です。しかし、相続放棄をする場合には、以下のような注意点があります。
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(1)正確な財産調査が必要
家庭裁判所に相続放棄をして、相続放棄が受理された後は、原則、相続放棄を撤回することができません。被相続人に多額の借金があると思って、相続放棄をしたものの、借金がなかった場合や借金を上回る財産が発見されたとしても、相続放棄の撤回は認められません。
そのため、相続放棄をする前提として、被相続人の財産を十分に調査することが重要となります。
もっとも、同居する家族であっても被相続人の資産や負債を正確に把握しているわけではありません。正確な相続財産調査をするためには、どこに照会をすればどのような財産が明らかになるのかについての知識や経験が不可欠となります。
安易に相続放棄をして思わぬ不利益を被ることのないようにするためにも、相続放棄前に財産調査を弁護士に依頼するのが安心です。 -
(2)相続放棄の期限は3か月
相続放棄をする場合には、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行わなければなりません。期限経過後の相続放棄の申述は、原則として認められませんので、期限に間に合うように手続きを進めていく必要があります。
もっとも、3か月では期間が足りないという場合には、裁判所に申し立てをすることによって期間の伸長が認められることもあります。3か月の期限内に相続放棄をするかどうかの判断が付かないという場合には相続放棄の期限の伸長も検討するとよいでしょう。 -
(3)相続放棄前の財産処分に注意
相続放棄前に被相続人の預貯金を引き出してしまったり、債務の支払いをしてしまったりすると相続財産の全部または一部の処分があったとして、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
相続放棄を検討している場合には、相続財産には一切手を付けないのが基本になりますが、どうしてよいかわからないことがあれば一人で判断するのではなく弁護士に相談をしてから行動するようにしましょう。
5、まとめ
生前に相続放棄をすることはできませんので、相続放棄をするためには、被相続人が亡くなった後に行うのが基本となります。
ただし、被相続人が亡くなった後の相続放棄は、3か月という非常に短い期限となっていますので、期限内に相続財産調査を終えて、適切に相続放棄の申述を行うためには、弁護士のサポートが必要不可欠となります。
相続放棄をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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