孫の養子縁組は相続対策になる? 養子縁組をするメリットと注意点
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令和3年度に静岡県浜松市に寄せられた相続・贈与に関する相談は884件でした。
相続税を軽減するための対策のひとつに「孫を養子にすること(孫養子)」があります。孫を養子にすれば、総合的に見て相続税を軽減できる可能性があることをご存じの方もいらっしゃるでしょう。ただし、税法上のルールや遺産分割トラブルのリスクがあることに注意が必要です。
本コラムでは、相続対策として用いられる孫との養子縁組や、その他の相続税対策について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、孫を養子にすることが相続税対策になる理由
孫を養子にすることは、以下で解説する理由から、相続税の軽減につながる可能性があります。
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(1)相続税の基礎控除額や生命保険・退職手当金の非課税枠が増える
相続税には基礎控除額が設けられており、課税価格の合計額が基礎控除以下である場合は、相続税が課税されません。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
養子となった孫が法定相続人となり、基礎控除額が増えれば相続税の軽減につながる可能性があります。(その場合、生命保険や退職手当金の非課税枠も増えます。)
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(2)1人当たりの相続額が減り、累進税率が下がる可能性がある
相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分に応じて取得したものとして計算した額について、それぞれに累進税率を適用した金額を合算することで求められます。
養子縁組によって孫を法定相続人にすることにより、法定相続人各人ごとの相続税額は少なくなります。場合によっては低い税率が適用され、その結果、相続税の総額が減少する可能性があります。 -
(3)「1代飛ばし」の相続により、トータルでの税負担が減りうる
たとえば、A→子どもB→孫Cと遺産が相続された場合、相続税が2回課税されます。
これに対して、Aから養子となった孫Cに直接遺産が相続された場合、Aの財産に対する相続税の課税は1回で済むこととなります。後述する「2割加算」はありますが、それを考慮したとしても、孫に多くの遺産をのこせる可能性があります。
2、孫を養子にする際の注意点
以下では、相続税対策として孫を養子にする場合に注意すべき点を解説します。
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(1)相続税の基礎控除について、算入できる養子の人数には上限がある
前述のとおり、相続税の基礎控除額は以下の式によって求めます。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
養子も法定相続人の数に含めることができますが、その人数には以下のような上限が設けられています。
- 実子がいる場合:1人まで
- 実子がいない場合:2人まで
上限を超える人数の孫を養子にしても、相続税の基礎控除の増加によるメリットは受けられない点に注意してください。
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(2)孫が負担する相続税は2割加算される
被相続人の一親等の血族(子どもまたは直系尊属)・代襲相続人となった直系卑属・配偶者以外の者が遺産を取得した場合、その相続人に対して課税される相続税額に対して2割の金額が加算されます。
被相続人と養子縁組をした孫も、親(被相続人の子ども)が死亡などによって相続権を失ったために自らが代襲相続人となった場合を除いて、相続税額の2割加算の対象となります。
相続税額のシミュレーションをする際には、2割加算が適用されることを忘れないようにしましょう。 -
(3)遺産分割トラブルのリスクが上がる
養子縁組によって孫が相続人になると、相続人の数が増えることに伴い、遺産分割トラブルのリスクが高まる可能性があります。
特に一部の孫だけと養子縁組をした場合、相続人の間で格差意識が生まれ、遺産分割協議が紛糾してしまうおそれがあります。
孫と養子縁組をする際には、できる限りすべての相続人が納得できる方法を検討しましょう。 -
(4)相続税対策のみを目的とする養子縁組は、否認されるおそれがある
相続税の基礎控除額の計算に当たり、養子を法定相続人の数に算入することが相続税の負担を不当に減少させる結果となる場合は、税務署長によって当該算入が否認されるおそれがあります(相続税法第63条)。
特に養子縁組の目的が相続税対策以外にない場合は、税務署長による否認のリスクは高まります。
家族関係の強化や後継ぎの確保など、相続税対策以外の合理的な理由を説明できるようにしておく必要があるのです。
3、孫との養子縁組以外にできる相続税対策
以下では、孫を養子とすること以外で相続税対策を行う方法を解説します
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(1)暦年贈与や相続時精算課税制度を活用する
① 暦年贈与
もっとも幅広く行われている相続税対策のひとつが、「暦年贈与」を行う方法です。
暦年贈与とは、贈与税の基礎控除を活用した贈与です。
贈与税には年間110万円の基礎控除が設けられており、基礎控除額以下であれば贈与税を課税されることなく、財産を贈与することができます。
毎年少しずつ暦年贈与を行えば、最終的な相続財産を減らせるため、相続税の軽減につながる可能性があるのです。ただし、贈与税の暦年課税については相続開始前3年以内に贈与を受けた財産(令和6年1月1日以降の暦年贈与については7年以内に改正)は、被相続人の相続財産に加算する規定があります。
② 相続税精算課税制度
相続時精算課税制度とは、受贈者(子どもや孫)が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。
早期にまとまった資金が必要な子どもや孫に生前贈与することができます。
また、令和6年1月からは、年間110万円の基礎控除が創設されています。この基礎控除は特別控除(2500万円)の対象外であり、相続発生時に相続財産に加算されません。
適用対象者は、贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子どもや孫)である推定相続人または孫です。贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの贈与税の申告期間内に、贈与税の申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」の届け出が必要です。
気をつけるべき点としては、相続時精算課税選択届出書を一度提出すると撤回できず、暦年贈与に戻ることができないことです。相続時精算課税制度は、同じ贈与者からの贈与について、年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となっていますので、この制度を選択した時点で、それ以降、暦年贈与は利用できないことになります。(ただし、別の贈与者からの贈与は利用可能)。
暦年贈与と相続税精算課税のどちらが有利かは、ケースによって結果は異なりますので、
税理士などの専門家に相談することをおすすめします。 -
(2)教育資金、結婚・子育て資金、住宅取得等資金の贈与を行う
教育資金、結婚・子育て資金または住宅取得等資金として直系尊属から受けた贈与については、一定の要件を満たせば、非課税限度額まで贈与税が課税されないという特例が設けられています。
① 教育資金の一括贈与
30歳未満の方が直系尊属から教育資金の一括贈与を受ける場合、一定の要件を満たせば1500万円まで贈与税が非課税となります。
② 結婚・子育て資金の一括贈与
18歳以上50歳未満の方が直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受ける場合、一定の要件を満たせば1000万円(結婚資金・限度額300万円)まで贈与税が非課税となります。
③ 住宅取得等資金の贈与
自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築・取得・増改築等の対価に充てるため、直系尊属から金銭の贈与を受けた場合は、一定の要件を満たせば500万円まで(省エネ等住宅の場合は1000万円まで)非課税となります。
上記の目的で贈与を受ける際には、該当する特例を忘れずに利用しましょう。
なお、暦年贈与(含む相続税精算課税制度の利用)と住宅資金贈与の適用を受ける際には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告を行う必要がある点に注意してください。上記①の教育資金の一括贈与や②結婚・子育て資金の一括贈与については、翌年の贈与税申告などの手続きの必要はありませんが、受領者が金融機関経由で所定の書類を提出する必要があります。
各非課税制度を適用の際には、期限や利用条件等がございますので専門家に相談の上ご検討ください。 -
(3)生命保険に加入する
一定の要件(契約者・被保険者=被相続人、受取人=相続人)を満たした生命保険の死亡保険金は相続税の課税対象となりますが、以下の金額まで非課税とされています。
死亡保険金の非課税限度額=500万円×法定相続人の数
※法定相続人の数に含めることができる養子の数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人まで
たとえば、預貯金で運用している金融資産の一部を、一時払いで貯蓄型の生命保険に加入すれば、非課税限度額の範囲内で相続財産が減り、結果的に相続税の負担が軽減される場合があるのです。
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(4)不動産を購入する
相続税が課される相続財産等の金額を減らす観点からは、不動産の購入が有効な対策となる場合があります。
不動産の相続税評価額は、物件の立地や築年数などにもよりますが、建物の場合、建築費の6割程度となるケースが多いといえます。
たとえば現金5000万円で建物を購入し、その建物の相続税評価額が3000万円であれば、課税財産等の価額が2000万円減少する可能性があります。
ただし、不動産相場は不確実で変動しやすいので、購入する物件はよく見極める必要があります。また、明らかな節税目的で購入したと認められた場合、相続税評価額と市場の取引価格に大きな乖離(かいり)がある場合は、相続税評価額が否認される場合もあるので、その点も注意が必要です。
4、孫の養子縁組など、生前の相続対策は弁護士に相談を
孫との養子縁組を含めて、生前の段階で相続対策を行う際には、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士は、ご家庭の状況に適した相続対策の方法をご提案いたします。
特にベリーベスト法律事務所にはグループ内に税理士も在籍しており、遺産分割トラブルの予防と相続税対策の両面について、総合的なアドバイスが可能です。
将来的な相続に備えて、今のうちから対策を講じておきたい方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
5、まとめ
孫との養子縁組は、中長期的・総合的な観点から効果的な相続税対策になり得ます。
ただし、実際に孫を養子にする際には税法や遺産分割に関する注意点をふまえる必要があるため、事前に弁護士や税理士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、生前の相続対策に関するご相談を承っております。相続案件を豊富に取り扱う弁護士が、お客さまに合わせた相続対策をご提案します。また、グループ内税理士とも緊密に連携を行い、相続税対策についても十分にサポート可能です。
生前の相続対策を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所 浜松オフィスにご連絡ください。
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