夫婦喧嘩で逮捕される? 警察に被害届を出されたらどうなるのか

2024年09月30日
  • 暴力事件
  • 夫婦喧嘩
  • 逮捕
夫婦喧嘩で逮捕される? 警察に被害届を出されたらどうなるのか

夫婦喧嘩(げんか)であっても、警察に通報されたり被害届を出されたら逮捕されるケースは少なくありません。たとえば令和6年5月には、浜松市内の自宅で妻を金属バッドで殴った容疑で男が逮捕されています。

刑事事件に発展してしまうと、たとえ夫婦間であっても、夫婦であることを理由に罪が免除されるケースはごく限定的です。特に夫婦喧嘩において起きる犯罪のほとんどは夫婦間であっても犯罪となり、警察に逮捕されることがあります。

本コラムでは夫婦喧嘩で問われうる罪の種類や刑罰、逮捕後の流れや円満解決を目指すためにやるべきことについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。


刑事弁護・少年事件を浜松の弁護士に相談 刑事弁護・少年事件を浜松の弁護士に相談

1、夫婦喧嘩で問われうる罪の種類と刑罰

一昔前まで、夫婦喧嘩は“夫婦間の問題”や“家庭内のトラブル”と評価され、民事不介入を理由に事件化されないという傾向がありました。

警察が事件化しにくいと同時に、加害者にも「夫婦間であれば罪にならない、逮捕されない」といった意識が強く、泣き寝入りをしていた被害者も多かったはずです。

しかし、悲惨な結果をまねいた数々の事件を教訓に、近年ではたとえ夫婦間であっても法律が厳格に適用され、厳しい処分を受ける事例が増えています。まずは、夫婦喧嘩で問われうる罪の種類や刑罰の内容を確認しておきましょう。

  1. (1)暴行罪

    拳で殴る、脚で蹴る、頭髪を引っ張る、物を投げつけるといった行為は、刑法第208条の暴行罪に問われます。

    たとえ相手に怪我がなくても成立するため、腕を引っ張る、胸や背中を強く押すといった行為も処罰の対象です夫婦喧嘩のさなかで少しでも相手に手を出せば、暴行罪が成立するものと考えるべきでしょう

    法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。

  2. (2)傷害罪

    暴力的な行為によって相手を負傷させれば、刑法第204条の傷害罪が成立します。負傷の程度は問わないので、骨折などの重傷に限らず、擦り傷や打撲といった軽傷でも傷害罪となる可能性があります。

    法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

    なお、暴行・傷害の結果、相手を死に至らしめてしまうと刑法第205条の傷害致死罪が成立します。死亡という重大な結果をまねいているため、法定刑も3年以上の有期懲役に加重されます。

  3. (3)脅迫罪

    相手の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告知すると、刑法第222条の脅迫罪に問われます。

    夫婦喧嘩の機会では「痛い目に遭わせるぞ」などの文言を投げかけることもありますが、法律の解釈に照らせば脅迫罪が成立します

    法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

  4. (4)強要罪

    生命・身体・自由・名誉・財産に対して害悪を告知し、または暴行を用いて、相手に義務のないことをおこなわせたり、権利行使を妨害したりすれば、刑法第223条の強要罪が成立します。土下座の強要などが典型的でしょう。

    法定刑は3年以下の懲役です。罰金の規定がないため、有罪となった場合は必ず懲役が言い渡されます。

  5. (5)暴力行為等処罰法違反

    夫婦喧嘩に適用されるのは刑法だけではありません。
    包丁などの刃物を持ち出して突きつける、脅すといった行為は「暴力行為等処罰法(暴力行為等処罰ニ関スル法律)」の違反となります。

    暴力行為等処罰法が適用されると、第1条の規定に従って暴行罪・脅迫罪にあたる行為が3年以下の懲役または30万円以下の罰金へと加重されます。

  6. (6)犯罪にあたらない行為

    夫婦喧嘩のなかには「これは犯罪になるのではないか?」と疑えるような行為が繰り返されることもあります。

    ただし、犯罪が成立するのはあらかじめ法律が定めた要件を満たす場合に限定されているため、ここで挙げるような行為は罪に問われません。

    ● モラハラにあたる言葉を投げかける
    侮辱的な言葉を投げかけるなどのモラハラ行為は、家庭内で起きる限り罪には問われません。

    ただし、不特定または多数の人が知ることができる状況であれば刑法第230条の名誉毀損罪や同第231条の侮辱罪が成立する余地はあります。

    また、モラハラ行為が度重なったことで精神疾患などを発症させた場合は傷害罪が成立することもあります

    ● 生活費を渡さない
    夫婦喧嘩を原因に生活費を渡さないといった行為は、配偶者暴力(ドメスティックバイオレンス・DV)の形態のひとつとなります。

    ただし、刑法などの定めに照らしても「生活費を渡さない」という行為そのものは犯罪に該当せず、民法が定める離婚事由の「悪意の遺棄」に該当するだけです。

    なお、老年・幼年・身体障害者・病者に対してその生存に必要な保護をしなかった場合は、刑法第218条の保護責任者遺棄罪として罪を問われます。したがって、配偶者が身体障害者や重病人で、保護を怠れば生命・身体に危険が及ぶといったケースでは保護責任者遺棄罪が成立することも考えられます。

2、通報や被害届により警察に逮捕されるとどうなる?

夫婦喧嘩が原因で犯罪が成立し、警察に逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?

  1. (1)身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、取り調べや捜査のために48時間以内の身柄拘束を受けます。警察署の留置場に身柄を置かれるため、自宅へと帰ることは許されません。

    その後、検察官のもとへと送致されると、さらに24時間以内の身柄拘束を受けます。ここで検察官が裁判官に勾留を請求して許可されてしまうと、原則10日間、延長によってさらに最長10日間、身柄拘束が延長されます。

  2. (2)起訴されると刑事裁判が開かれる

    逮捕・勾留による身柄拘束の期間は最長で23日間です。身柄拘束が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴を判断します。

    検察官が起訴すれば刑事裁判へと発展し、不起訴となれば事件が終了して釈放されます。

  3. (3)有罪判決が下されると刑罰を受ける

    刑事裁判には、公開の法廷で審理される公判と、書面審理のみで迅速に処理される略式手続があります。

    公判では、傍聴人の前で裁判官が証拠を取り調べて審理し、最終回では判決として有罪・無罪の別と、有罪の場合の量刑を言い渡します。

    ただし、夫婦喧嘩で適用される犯罪の多くは罰金が予定されているため、公判よりも略式手続によって処理される可能性が高いでしょう。

    略式手続による処理を加害者本人が受け入れた場合は、必ず罰金が言い渡されます。
    迅速に裁判・刑罰が終了するという利点がある一方で、書面審理のみで言い分を尽くす機会が与えられないまま有罪となるという点にも注意が必要です。

    前述の通り、通報や告訴などにより逮捕されれば、場合によっては長期にわたり身柄を拘束されてしまうことがあります。夫婦喧嘩が発端として刑事事件になってしまったときは速やかに弁護士に相談すべきです。

まずはお気軽に
お問い合わせください。
電話でのお問い合わせ
【通話無料】平日9:30~21:00/土日祝9:30~18:00
メールでのお問い合わせ一覧
営業時間外はメールでお問い合わせください。

3、釈放の可能性は?

警察に逮捕されてしまうと、自宅に帰ることも、仕事に向かうことも許されずに社会から隔離されてしまいます。

では実際、逮捕された後はどのようなタイミングで釈放されるのでしょうか。

  1. (1)逮捕されてしまったら早期釈放を目指す

    逮捕・勾留による身柄拘束は最長で23日間にわたります。さらに検察官が公判を請求した場合は、被告人としての勾留が継続するため、原則として刑事裁判が終了するまで身柄拘束が解かれません。

    数か月にわたる身柄拘束を受けてしまえば、会社から解雇されてしまう、近隣住民に事件の話が知れ渡ってしまい生活しにくくなるといった不利益が生じるおそれがあります。
    さまざまな不利益を回避するには、1日でも早い釈放を目指すことが大切です。

  2. (2)釈放の主なチャンスは4回

    警察に逮捕された後、釈放を期待できる主なチャンスは4回です。以下の他にも逃亡や証拠隠滅の危険が少なく、身柄拘束の必要性がないと判断されると釈放されます。

    ● 逮捕直後、検察官に送致される前のタイミング
    警察は、逮捕した被疑者の身柄を検察官へと送致するのが原則です。ただし、送致前に被害者が被害届を取り下げれば「送致の必要はない」と判断され、不送致となって釈放される可能性があります

    なお、夫婦喧嘩の現場に警察官が駆けつけて任意同行されたケースでは、逮捕前なら警察限りで処理が終了することもあります。この手続きを微罪処分といい、検察庁への報告のみで済まされるため刑罰は科せられません。

    ● 検察官が勾留を請求する前のタイミング
    検察官が勾留を請求するまでに被害届が取り下げられれば、身柄を拘束してまで捜査を継続する必要がなくなるため釈放が期待できます。

    勾留が許可されてしまうと、さらに最長20日間の身柄拘束を受けてしまうおそれがあるため、身柄拘束の長期化を防ぐには勾留請求までの逮捕後72時間以内における対応が重要です。

    ● 検察官が起訴・不起訴を判断するタイミング
    検察官が不起訴処分を下せば事件が終了するため釈放されます。刑事裁判が開かれず刑罰も受けないので、遅くともこのタイミングまでに示談を成立させることが大切です。

    ● 刑事裁判が終了するタイミング
    刑罰が言い渡されて刑事裁判が終了すると、その時点で勾留による身柄拘束の効力がなくなります。

    執行猶予付きの判決や罰金が言い渡された場合は、直ちに釈放されるでしょう。一方、実刑判決が言い渡された場合は社会に復帰することなく刑務所へと収監されてしまいます。

4、解決を望むなら弁護士に相談を

夫婦間のトラブルであっても、犯罪にあたる行為があれば法律に照らして厳しく処罰される可能性があります。できる限り穏便なかたちでの解決を望むなら、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。

  1. (1)被害者との示談交渉を一任できる

    刑事事件を穏便に解決するもっとも有効な手段が、被害者との示談交渉です。示談が成立して被害届が取り下げられれば、警察・検察官による捜査が終了して早期釈放が期待できます。

    夫婦であれば交渉が難航することは少ないのでは、と考える方もいるでしょうしかし、トラブルを背景に刑事事件へと発展している場合は、夫婦だからこそ示談交渉をかたくなに拒絶されてしまうケースも珍しくありません

    お互いがヒートアップする事態を避けるには、弁護士を代理人として交渉を進めることが適切といえるでしょう。

  2. (2)捜査機関・裁判官へのはたらきかけが期待できる

    被害者が被害届を提出しない、あるいは被害届が取り下げられた事件でも、放置すれば危険な状態が解消されないなどの理由で警察が逮捕を断行するケースが存在します。

    また、暴行や傷害といった犯罪は親告罪にあたらないため、たとえ被害者が被害届を提出しなかった場合でも検察官が起訴に踏み切るおそれがあることは否定できません。

    逮捕や起訴、厳しい刑罰を回避するには、警察・検察官といった捜査機関や裁判官に対するはたらきかけが重要です。

    加害者と被害者が相互に和解しており危険は解消されていること、加害者が暴力的な行為を再びはたらくことはないと誓約していることなどを合理的に主張する必要があるので、弁護士のサポートは大変重要といえます

5、まとめ

たとえ夫婦間であっても、警察に通報や被害届を出され、暴行や傷害などの犯罪行為があれば逮捕され、刑罰が科せられるおそれがあります。「民事不介入」を理由に事件化されないという誤った知識・情報を信じていると、突然に逮捕されてしまうこともあると心得ておくべきです。また、子どもの前で行われた夫婦喧嘩であれば児童相談所へも通報されることも知っておきましょう。

夫婦喧嘩の際に暴力をふるってしまった、相手を脅してしまった、勢いで刃物を持ち出してしまったなどの行為をした結果、警察から取り調べを受ける可能性がある場合は、早期に弁護士に相談してサポートを求めましょう。

刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所 浜松オフィスが丁寧に状況をお伺いし、不当に重すぎる罪に問われないよう力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています