不倫(不貞行為)をした側は離婚できない? 離婚請求できるケースとは

2022年03月29日
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不倫(不貞行為)をした側は離婚できない? 離婚請求できるケースとは

令和4年に公表された静岡県の人口動態統計によると、平成30年の静岡県内における離婚件数は5923件でした。また、令和2年度の司法統計によると、離婚原因として女性で5位、男性で4位に“異性関係”があがっています。

もし不貞行為をしてしまった場合、離婚原因をつくった有責配偶者とされます。このようなケースで離婚を請求することは可能なのでしょうか。

今回は、不貞行為をした有責配偶者からの離婚請求について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。

(出典:平成30年静岡県人口動態統計(離婚))

1、法定離婚事由と有責配偶者

離婚することについて相手が同意しない場合に、離婚裁判で強制的に離婚を求めるためには、「法定離婚事由」(民法第770条第1項各号)が必要です。

法定離婚事由には、以下の5つがあります。

① 不貞行為
配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性交渉を行うこと

② 悪意の遺棄
正当な理由なく別居したり、生活費を全く入れなかったりすること

③ 3年以上の生死不明
配偶者の生死が3年以上不明であること

④ 強度の精神病
配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと

⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
①~④以外に、婚姻関係の継続が困難であると認められる事情が存在すること


上記の離婚事由について、専らまたは主として責任のある一方の当事者を、有責配偶者といいます。

2、有責配偶者からの離婚請求は認められる?

不貞行為をした側が、相手と別れたいと思って離婚を切り出したものの、相手に拒否されたというようなケースはよく見られます。

不貞行為をした側は「有責配偶者」に当たりますが、有責配偶者からの離婚請求が認められることはあるのでしょうか。

  1. (1)有責配偶者からの離婚請求は認められにくい

    たとえば、自らの不貞行為によって夫婦関係が悪化し、別居状態となったことを離婚理由(婚姻を継続し難い重大な事由)として、離婚請求を行うとします。

    しかし、夫婦関係が険悪になったのは自分の不貞行為が原因なのに、離婚請求を認めてしまうのは不公平です。

    そのため、法定離婚事由が存在するとしても、有責配偶者である側からの離婚請求は、常に認めるべきではないと解されています。

  2. (2)有責配偶者からの離婚請求が認められるための判例基準

    有責配偶者からの離婚請求が不公平であるからといって、婚姻関係が完全に破綻している状態でも離婚請求を認めないとすれば、不自然な結果を生んでしまいます。

    最高裁昭和62年9月2日判決では、有責配偶者からの離婚請求も、以下の条件の下であれば許容し得ると判示しました。

    • ① 夫婦の別居が、両当事者の年齢および同居期間と比較して、相当の長期間に及んでいること
    • ② 夫婦間に未成熟子が存在しないこと
    • ③ 相手が離婚によって、精神的・社会的・経済的にきわめて過酷な状態に置かれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反する特段の事情がないこと


    したがって、有責配偶者からの離婚請求が一切認められないわけではなく、厳しい条件を満たす条件付きではあるものの、一定の場合には認められる可能性があるのです

  3. (3)婚姻関係破綻後の不貞行為は、有責事由に当たらない

    不貞行為をした者は、原則として有責配偶者に該当します。

    しかし、不貞行為の当時において、婚姻関係が完全に破綻していた場合には、例外的に有責配偶者には該当しません(最高裁昭和46年5月21日判決)。

    よって、婚姻関係破綻後に不貞行為をした者が離婚請求を行った場合、有責配偶者としては取り扱われず、通常の要件(法定離婚事由の存在)に従って離婚請求の可否が判断されます。

3、有責配偶者からの離婚請求が認められた裁判例

実際にどのような事案において、有責配偶者からの離婚請求が認められているのかを確認するため、最高裁判例を2つピックアップして紹介します。

  1. (1)未成熟子あり・別居期間13年余で離婚請求が認められた事例

    最高裁平成6年2月8日判決の事案では、当時いずれも50代の夫婦の間で離婚請求が争われました。離婚請求をした夫は、妻とは別の女性と長年不貞関係にあり、有責配偶者に該当します。

    夫婦の子は4人いて、そのうち3人は成人して独立していたものの、末っ子は判決時点で高校2年生(未成熟の子)でした。

    最高裁は、未成熟の子がいたとしても、有責配偶者からの離婚請求を直ちに排斥すべきではないと判示しました。

    そのうえで、以下の事情を総合的に考慮して、夫の離婚請求を認めました。

    • 原審の口頭弁論終結時において別居期間が13年11ヶ月余で、夫婦の年齢や同居期間と比較して相当の長期間であること
    • 夫がすでに新たな生活関係を形成していること
    • 未成熟子は三歳の幼少期から一貫して妻の監護のもとで育てられたこと
    • 未成熟子はまもなく高校を卒業する年齢に達していること
    • 夫は妻に対して毎月15万円の養育費を送金しており、未成熟子の養育に無関心であったわけでもないこと
    • 夫の妻に対する離婚に伴う経済的給付の実現が期待できること
    • 妻が受けた精神的苦痛および経済的不利益は、別途補償によって解決されるべきであること
  2. (2)別居期間8年で離婚請求が認められた事例

    最高裁平成2年11月8日判決の事案でも、当時いずれも50代の夫婦の間で、離婚請求が争われました。

    離婚請求をした夫は、かつて妻と別の女性と不貞関係を持っていました。その女性とはすでに別れていたものの、妻とは約8年間別居状態にありました。

    夫婦の子は2人いて、いずれも学生ではあるものの20代半ば~後半であり、未成熟子とはいえない年齢でした。

    最高裁は、以下の事情を総合的に考慮して、夫の離婚請求を棄却した原審を破棄し、高等裁判所に審理を差し戻しました。

    • 夫は、別居後も妻や子の生活費を負担していること
    • 夫は、別居後まもなく不倫相手との関係を解消したこと
    • 夫は離婚請求に当たって、妻に財産関係の清算について具体的な誠意ある提案をしていること
    • 妻は過去に、夫所有の不動産について、処分禁止の仮処分を執行したこと
    • 子も離婚については当事者である夫の意思に任せると言っていること


    別居期間は8年と比較的短いですが、有責配偶者が自らの責任を薄めるような真摯(しんし)な対応を取っていれば、離婚請求が認められる可能性があることが分かります

4、離婚請求が認められない場合の対処法

有責配偶者からの離婚請求は、簡単には認められるものではありません。

もし離婚請求の認容を期待できない場合には、協議離婚または調停離婚を目指しましょう。協議離婚・調停離婚をするには、配偶者から離婚の同意を得る必要があります。そのためには、配偶者が納得できるような離婚条件を提示することがポイントです。

まずは財産分与・慰謝料・養育費・親権などについて、配偶者の希望に耳を傾けましょうそして、できる限り配偶者の希望を満たすような提案をすることが、協議離婚や調停離婚の成立に繋がります

5、離婚を弁護士に依頼するメリット

配偶者との離婚を目指す場合、弁護士に離婚協議等を依頼することをおすすめします。

  1. (1)相手と直接話し合わずに済む

    弁護士は、離婚協議等を一括して代行いたしますので、ご本人は配偶者と直接交渉する必要がありません。

    夫婦同士の離婚協議では、感情的ないい争いになってしまうケースも多く、またそもそも、相手の顔すら見たくないという方もいらっしゃるでしょう。弁護士に依頼すれば、冷静に離婚協議を進めることができますし、相手と顔を合わせることによるストレスも回避できます。

    離婚について配偶者と話し合うのが億劫だ、うまく話ができるか心配だという方は、弁護士への依頼をご検討ください。

  2. (2)法的な相場を踏まえて離婚条件の交渉を進められる

    離婚に当たっては、財産分与・慰謝料・養育費・親権など、さまざまな離婚条件を取り決めなければなりません。

    特に有責配偶者の方が離婚を目指す際には、慰謝料が大きな争点となります。

    弁護士に依頼すれば、過去の裁判例などを踏まえて、法的に妥当な慰謝料額でまとまるように交渉を進めます。また、慰謝料以外の離婚条件についても、依頼者の希望を踏まえて交渉し、円満に離婚を成立させられるように力を尽くします。

    適正な条件により配偶者との離婚を成立させたい方は、弁護士にお任せください。

6、まとめ

不貞行為をするなど離婚事由について専らまたは主として責任のある一方の当事者は「有責配偶者」に該当します。有責配偶者からの離婚請求は、信義則の観点から認められにくくなっています。

しかし、離婚請求が一切認められないわけではありません別居期間や未成熟子の有無、さらに不貞行為の後の行動などによっては、離婚請求が認められるケースもあります

ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスでは、離婚に関する有責配偶者の方からのご相談を、随時承ります。

まずは協議離婚・調停離婚を目指して、配偶者の方を説得いたします。それが難しければ、裁判離婚を目指して、有責配偶者からの離婚請求が認められるような条件を整えるためのアドバイスを差し上げます。

離婚に関する手続きの大部分は弁護士が代行いたしますので、依頼者に大きなご負担がかかることはございません。配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 浜松オフィスへご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています