養育費を払わない相手の財産を差し押さえたい! 強制執行の方法

2024年06月20日
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養育費を払わない相手の財産を差し押さえたい! 強制執行の方法

元夫(あるいは元妻)が、養育費を支払わない場合、強制的に養育費を支払わせるために財産の「差し押さえ」を行える「強制執行」の手続きを行えるケースがあります。 しかし、浜松市が取り組む「子どもの未来サポートプロジェクト」の資料によると、浜松市が令和2年9月7日から9月25日に実施した調査に協力したひとり親世帯は324世帯 のうち、養育費について文書を交わして取り決めをしたものの支払いがないという世帯は29.6%、そもそも養育費の取り決めを行っていない世帯が32.3%あるという結果でした。養育費が支払われなければ、言うまでもなく、親権者と子どもとの家庭に大きな経済的悪影響を及ぼします。ひとり親家庭の貧困は、まさにその問題の現れです。

本コラムでは、養育費を払わない相手の財産を差し押さえる方法や強制執行を行うための準備について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。


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1、養育費の差し押さえをするにあたって必要なこと

養育費の差し押さえにあたっては、次の3つの条件が必要となります。

  1. (1)債務名義と送達証明書があること

    差し押さえは、債務者の財産を強制的に債権者に渡す手続き、すなわち強制執行の手続きの一種です。

    いわば個人の財産に強制的に手を付ける手続きですから、それをする権利があること、すなわち、債務者であること(今回であれば、養育費を払ってもらう資格があること)が証明されていなければなりません。

    そのため、強制執行をするためには、「債務名義」が必要です(民事執行法22条)。

    債務名義とは、国家の強制力によって実現されるべき請求権の存在および範囲を確定表示し、法律により執行力を付与された公の文書です。

    これを読んだだけではイメージしにくいと思いますが、要は、判決書など、債務があるということ国が公的に認めた文書をいいます。

    養育費を回収するにあたっては、以下の文書が債務名義となりえます。

    • 強制執行認諾文言付きの公正証書で養育費を取り決めた場合、その公正証書
    • 離婚訴訟などの判決で養育費が決まった場合、その確定判決
    • 訴訟上の和解によって養育費を決めた場合、その和解調
    • 離婚調停などの調停で養育費が決まった場合、その調停調書
    • 養育費を求める審判によって養育費が決まった場合、その審判書


    もし、上記のような養育費についての債務名義がない場合は、それを入手しなければなりません。相手方との間で、養育費の金額等の内容について裁判外で合意できる場合には、公正証書も併せて作成しておきましょう。反対に、養育費の有無や内容について、相手方との間で争いがある場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて決める必要があります。

    次に、「送達証明書」が必要ですが、これは、債務名義が債務者に送達されたことを証明する文書です。強制執行は、債権者の申し立てによって行われる手続きですから、債務者に対して、どのような債務名義に基づいて行われるのかを知らせ、反論の機会を与えるために送達証明書が必要となります。

    送達証明書は、公正証書の場合は公証役場、判決や調停調書など、裁判所作成の文書の場合は管轄の裁判所に対して申請することで取得できます。

  2. (2)相手の住所が判明していること

    裁判所が発する差押命令は、債務者にも送達する必要があります。したがって、差し押さえを行うにあたっては、債務者(元配偶者)の現在の住所を知っていなければなりません。

    債務者の住所が分からない場合は、戸籍の附票や、住民票を取り寄せるなどして、調査することができます

    なお、弁護士は、職務上請求という制度を利用して、これらの書類を取り寄せることができます

  3. (3)差し押さえの対象となる財産を把握していること

    差し押さえという方法は、債務者の財産を強制的に取り上げて債権者に渡すというものなので、その財産を特定しなければなりません。

    この事実を知ると、時に「国(裁判所など)が探してくれないの!?」と驚かれる方もいますが、債権者側が財産を見つけなければならないのです。

    差し押さえの対象となる財産は、動産・不動産・債権の3つです。

    動産とは、不動産以外の物です。たとえば、車や宝石、絵画などです。
    不動産とは、土地や建物のことです。債務者名義の家があれば、差押対象財産となりえます。

    債権とは、債務者が第三者からお金を払ってもらえる権利のことです。
    たとえば、会社に勤めている場合、会社から債務者に支払われる給与債権があるので、これが差押対象財産となります。給与の差押は原則的には給与の4分の1までしかできませんが、養育費については給与の2分の1まで差押ができます。また、債務者が銀行にお金を預けている場合、銀行からお金を返してもらえる権利である預金債権を持っていますので、これが差押対象財産となります。

    元配偶者の勤務先や、預金口座が分かっている場合、何を差し押さえるかを悩むことはありません。ただし、離婚後に債務者が転職をしていて、現在の勤務先が分からなかったり、預金口座を解約していたりして、財産のありかが分からない場合は厄介です。

    このような場合には、財産を探す2つの方法があります。

    1つ目は、弁護士会照会制度です。これは、弁護士法第23条の2に基づいて、弁護士会が、官公庁や企業などの団体に対して、必要事項を調査・照会する制度です。

    2つ目は、財産開示という制度です。この制度自体は従前からある制度ですが、2020年4月1日から施行された民事執行法の改正によって、今までよりも活用しやすい制度となりました。金融機関からの預貯金情報の取得、登記所からの不動産情報の取得、市町村等からの勤務先情報の取得等が可能になりました。

2、裁判所を通じての差し押さえする手続きの流れ

ここでは、債権の差し押さえを行うという前提で解説します。

  1. (1)管轄の裁判所に対して差し押さえの申し立てをする

    管轄は、債務者の住所地を管轄する裁判所です。
    申し立てにあたっては、次の書類が必要となります。

    • 申立書
    • 債務名義の正本
    • 執行文(債務名義の種類によっては不要)
    • 送達証明書
    • 資格証明書
    • 申立手数料(収入印紙)
  2. (2)差押命令が出される

    申立書類の内容に不備等がなければ、裁判所から差押命令が出されます。

    債務者の財産を差し押さえる旨が記載された書面(差押命令正本)が債務者と、第三債務者に送達されます(第三債務者とは、差し押さえの対象となっている、債権の債務者のことです)。

    給与債権を抑えるのであれば支払い元の会社、預金債権を差し押さえるのであれば銀行が第三債務者となります。)。その後、差押命令正本が債務者と第三債務者に届いたかどうか、裁判所からあなたに通知されます。

  3. (3)第三債務者が、陳述書を裁判所へ返送する

    第三債務者が、今回差し押さえの対象となっている財産の有無等について回答します。

    ① 差押債権があった場合
    債権者があなた一人であった場合、晴れてその債権を獲得することができます。

    第三債務者から直接取り立てることもできますが、第三債務者が供託所に債権を供託した場合には、裁判所で弁済金交付手続を行います。

    債権者があなた以外にもいた場合、第三債務者は、今回差し押さえられた債権を供託しなければなりません。(供託とは、供託所(国の機関)に、その財産の処分が決まるまで財産を渡し、管理してもらうこと)その後、裁判所において配当手続きが行われ、支払いを受けることができます。

    ② 差押債権がなかった場合
    差押命令が発せられたものの、第三債務者が債務者に対する債務を負っていなかった場合(たとえば、預金の残高がない、職場をすでに退職していたような場合)には、差し押さえは失敗となります。ほかの財産を差し押さえる、時期を変えるなどの方法をとる必要があるでしょう。

3、差し押さえができないパターン

  1. (1)行方不明の場合

    先に説明したように、差し押さえをするにあたっては、債務者の現在の住所を把握しておく必要があります。

    仮に、債務者が行方をくらましてしまい、居場所が分からず、そのために債務者の財産を調べることもできないというような場合には、差し押さえは困難となります。

    もっとも、債務者の行方は分からないものの、不動産や預貯金など、債務者名義の財産のありかは分かっているというような場合には、「不在者財産管理人」などの制度を利用した差し押さえも検討する必要があります。

  2. (2)生命保険の解約返戻金は?

    生命保険の解約返戻金請求権についても、実は差し押さえの対象となります。

    これを差し押さえた債権者は、生命保険の解約権を行使することができます。

    生命保険の解約返戻金請求権について差し押さえをした債権者は、実際に生命保険を解釈する権限についても判例上認められています。

    ただし、離婚後は生命保険証券が相手の手元にあることがほとんどでしょうから、どのような保険に入っているのかを特定することが難しいかもしれません。

4、弁護士に依頼するべき理由

差し押さえという手続きは、養育費の回収において、もっとも重要といっても過言ではありません。せっかく公正証書を作ったり、勝訴判決を獲得したりして養育費を払ってもらえることになっても、差し押さえに失敗してしまうと、それらの書類はただの紙切れとなってしまいます。

差し押さえは、弁護士であっても特に神経をとがらせる手続きです。一度差し押さえに失敗してしまうと、債務者が財産隠しに走り、2度目以降の差し押さえが功を奏しなくなる可能性が高いため、1発で成功させる必要性があるのです。

また、差し押さえに必要な書類は数が多く、またその書き方も、裁判所のホームページなどで紹介されているとはいえ、初めて書かれる方にとっては難解なものです。

養育費を回収する可能性を少しでも高めるためには、弁護士に依頼して手続きを進めることをおすすめします。

5、まとめ

養育費を支払ってもらえないと、子どもに十分な教育を受けさせてあげられなかったり、場合によっては衣食住にも大きな問題が出てきてしまうことがあります。そのような場合に備え、子どもを養育する方は、離婚する際にしっかり養育費について取り決めを行うことや、取り決めた内容について強制執行ができる条項を設けた債務名義を作成することが必要です。

浜松市では、養育費取り決めの支援として、強制執行認諾約款がある公正証書作成に必要な公証人手数料や、調停に必要な費用を一部支援する取組が行われています。さらに、養育費確保の支援として、養育費立替サービスを利用する際に必要な保証料などについても支援してくれるので、離婚後に払ってもらえないという事態に陥る前、離婚する際に利用してみてはいかがでしょうか。

なお、差し押さえは、非常に強力な手段です。したがって、債務名義がない場合は、新たに裁判所の手続きを経て差し押さえを認めてもらう必要があります。仕事や育児の合間にその対応を行うことは非常に難しく、あきらめてしまう方は少なくないようです。そのような場合、弁護士に対応を依頼することが可能です。実際に差し押さえをしたい、より詳しく知りたい方は、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスにご相談ください。あなたの状況に適したサポートを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています