養育費を一括で受け取ったら、税金は発生するの?
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浜松市における2020年の婚姻件数は3278件、離婚件数は1121件でした。
子どもの教育資金・生活費などに充てる養育費は、毎月分割で支払うのが一般的ですが、離婚時の取り決めにより一括払いするケースも散見されます。
養育費を一括払いとする場合、贈与税の課税に注意が必要です。その他にも、養育費の一括払いには特有の注意点があるため、弁護士への相談をおすすめします。
今回は、養育費の一括払いを受けた場合の税金に関するルールについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
出典:「浜松市統計書 令和3年版」(浜松市)
1、養育費は原則として課税されない
子どもがいる夫婦が離婚した場合、その後は親権者でない側が親権者に対して、養育費を支払うのが一般的です。
養育費については、贈与税の課税が問題となることがあるものの、原則としては非課税とされています。
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(1)養育費は扶養義務の一環|贈与税は課税されない
養育費とは、子どもと同居しない親が親権者に対して、子どもの生活費や学費などとして支払う金銭です。
夫婦が離婚した場合でも、子どもとの親子関係がなくなるわけではありません。引き続き親子であり続ける以上は、親子関係に基づく扶養義務(民法第877条第1項)も存続します。
しかし、親権者でない側の親は子どもと同居しないため、日常生活の中で子どものために費用を支出することが基本的にありません。そこで、親権者に対して養育費を支払うことで、親としての扶養義務を果たすのです。
他人に財産を無償で与える「贈与」には、原則として贈与税が課されます。しかし養育費の支払いについては、上記のとおり扶養義務の一環であるため、原則として贈与税が非課税とされています(相続税法第21条の3第1項第2号)。 -
(2)養育費の取り決め方・計算方法
養育費の金額は、父母間の協議によって決定します。協議がまとまらない場合には、離婚調停・離婚訴訟や養育費請求調停・審判によって定められます。
参考:「夫婦関係調整調停(離婚)」(裁判所)
参考:「養育費請求調停」(裁判所)
協議または調停によって養育費を取り決める場合は、どのように金額を定めても構いません。ただし、審判や訴訟の場合に見込まれる金額を参考に、養育費の額を定めるのが一般的です。
養育費の適正額を求める際には、裁判所のホームページでも公表している「養育費算定表」が参考になります。父母の収入バランスや子どもの人数・年齢に応じて、簡易的に養育費の金額を求めることが可能です。
参考:「養育費算定表」(裁判所)
なお、以下の計算式を用いて、厳密に養育費の金額を計算することもできます。- 養育費=子の生活費×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
- 基礎収入=義務者の総収入×基礎収入割合
- 子の生活費=義務者の基礎収入×子の生活費指数合計÷(100+子の生活費指数合計)
<給与所得者の基礎収入割合>
0~75万円 54% ~100万円 50% ~125万円 46% ~175万円 44% ~275万円 43% ~525万円 42% ~725万円 41% ~1,325万円 40% ~1,475万円 39% ~2,000万円 38%
<自営業者の基礎収入割合>
0~66万円 61% ~82万円 60% ~98万円 59% ~256万円 58% ~349万円 57% ~392万円 56% ~496万円 55% ~563万円 54% ~784万円 53% ~942万円 52% ~1,046万円 51% ~1,179万円 50% ~1,482万円 49% ~1,567万円 48%
<子の生活費指数>
- 子が14歳以下の場合:1人当たり62
- 子が15歳以上の場合:1人当たり85
2、養育費について税金が課されるケース
前述のとおり、養育費には贈与税が課されないのが原則です。しかし、以下の場合には贈与税が課される可能性があるのでご注意ください。
- 養育費を使わずに預貯金している場合
- 養育費で株式や不動産を購入した場合
- 養育費を一括で受け取った場合
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(1)養育費を使わずに預貯金している場合
元配偶者から支払いを受けた養育費のうち、贈与税が非課税となるのは、子どもの生活費または教育費に充てるために「通常必要と認められるもの」に限られます(相続税法第21条の3第1項第2号)。
受け取った養育費を生活費や教育費に充てることなく、そのまま預貯金として預けたままにしている場合は、「通常必要と認められるもの」に当たらないとして、贈与税を課される可能性があります(相続税法基本通達21の3-5)。 -
(2)養育費で株式や不動産を購入した場合
養育費として支払いを受けた金銭を用いて、株式や家屋(不動産)を購入した場合には、その金額について贈与税が課される可能性があります(相続税法基本通達21の3-5)。
養育費という名目であっても、株式や家屋の購入資金に充てることができるのであれば、子どもの生活費や教育費に充てるために「通常必要と認められるもの」に当たらないためです。 -
(3)養育費を一括で受け取った場合
養育費を毎月払いではなく一括で受け取る場合も、贈与税の課税に注意が必要です。
元配偶者と極力連絡を取り合いたくないなどの理由から、養育費を一括払いとするケースはしばしば見られます。
しかし、多額の養育費を一括で受け取った場合、子どもの生活費や教育費に充てるために「通常必要と認められる」範囲を超えると判断され、贈与税を課される可能性があります。
贈与税の税率は、贈与額が多額になればなるほど高率となります。養育費を一括で受け取る場合、その金額は数百万円以上に及び、多額の贈与税が課される可能性が高いです。
もし養育費の一括払いを取り決める場合には、弁護士を通じて税理士の紹介を受け、税務面からのアドバイスを受けることをおすすめします。
3、養育費と扶養控除の関係性
贈与税のほか、養育費について検討すべき税務上の論点として挙げられるのが「扶養控除」との関係性です。
参考:「No.1180 扶養控除」(国税庁)
扶養控除とは、所得税・住民税の申告・納付につき、家族などを扶養している場合に受けられる所得控除です。16歳以上の子どもについて養育費を支払っている方は、扶養控除を受けられる可能性があります。
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(1)扶養控除を受けるための要件|養育費を支払う側も可
扶養控除は、「控除対象扶養親族」がいる方が受けられます。
控除対象扶養親族に当たるのは、扶養控除の適用を受ける年の12月31日時点において、以下の要件をいずれも満たす方です。- (a)以下のいずれかに該当すること
・配偶者以外の親族
・都道府県知事から養育を委託された児童
・市町村長から養護を委託された老人 - (b)納税者と生計を一にしていること
- (c)年間合計所得が48万円以下
- (d)青色申告者の事業専従者として、その年を通じて一度も給与の支払いを受けておらず、かつ白色申告者の事業専従者でないこと
- (e)16歳以上
国税庁の照会回答によれば、子どものために養育費を支払っている場合も、以下の2つの要件を満たせば「生計を一にしている」と認められ、扶養控除を受けることが可能です。
- (a)扶養義務の履行として行われる場合
- (b)「成人に達するまで」など、一定の年齢等に限って支払われる場合
- (a)以下のいずれかに該当すること
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(2)扶養控除の金額
扶養控除の金額は、以下のとおりです。
一般の控除対象扶養親族
(その年の12月31日時点で16歳以上19歳未満、23歳以上70歳未満)38万円 特定扶養親族
(その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満)63万円 老人扶養親族
(その年の12月31日時点で70歳以上)(a)同居老親等の場合:58万円
(b)それ以外の場合:48万円
子どもを扶養している場合、子どもが16歳以上19歳未満(または23歳以上)であれば38万円、19歳以上23歳未満であれば63万円の扶養控除を受けられます。
なお、16歳未満は児童手当の対象とされたことに伴い、扶養控除の対象からは除外されています。 -
(3)扶養控除を受けられるのは一方の親のみ
子どもが父母両方の控除対象扶養親族に当たる場合、どちらの親が扶養控除を受けるかは自由に選択できます。収入が多い側に限らず、少ない側も扶養控除を受けることが可能です。
ただし、1人の子どもについて扶養控除を受けられるのは、いずれか一方の親のみです。両方の親が扶養控除を受けることはできないのでご注意ください。 -
(4)養育費を一括払いした場合、扶養控除は受けられない
養育費を支払っている方が、子どもと「生計を一にしている」と評価できるかどうかは、「常に送金が行われているかどうか」によって判断されます。
参考:「生計を一にするかどうかの判定(養育費の負担)」(国税庁)
養育費を一括払いした場合、常に養育費を送金しているとはいえません。そのため、子どもと「生計を一にしている」とは認められず、扶養控除を受けられない点にご注意ください。
4、養育費についての悩みは弁護士へご相談を
養育費の金額や支払方法を取り決める際には、養育費算定表などを用いて適正額の計算に加えて、税金に関する論点にも注意が必要です。
弁護士は、適切な養育費の計算や、協議・調停・訴訟(審判)の手続きなどを一貫してサポートいたします。養育費に関する税務上の問題点についても、税理士と連携してワンストップでのアドバイス・ご対応が可能です。
養育費の請求についてお困りの方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
養育費には原則として贈与税が課されませんが、一括で養育費を受け取る場合などには、例外的に課税対象となる場合があります。
一括払いなど、通常とは異なる形で養育費の精算を行う際には、税務上の論点にも注意が必要です。弁護士にご相談いただければ、税理士と随時連携を行い、法律・税務の両面から離婚問題・養育費問題の解決をサポートいたします。
配偶者との離婚をご検討中の方、養育費についてお悩みやご不明点がある方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています