ノルマが達成できないからクビと言われた! 適切な対応方法と法律
- 不当解雇・退職勧奨
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浜松市が公表している雇用保険の状況に関する統計資料によると、令和2年度における浜松公共職業安定所管内における離職票交付数は、3万1688件でした。離職票は、会社を退職した際に受け取る書類ですので、多くの方が会社を辞めていることがわかります。
営業職などでは会社から一定のノルマを課されることがあります。適切なノルマの設定であればよいですが、達成困難なノルマが設定された場合には、やる気の低下につながるおそれがあります。このようなノルマが設定された場合に、ノルマが達成できないことを理由に解雇をされることはあるのでしょうか。
今回は、ノルマ不達成による解雇の有効性と解雇された場合の適切な対応方法について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、「ノルマが達成できないからクビ」は違法!
ノルマが達成できないことを理由に解雇することは、不当解雇やパワハラになる可能性があります。
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(1)不当なノルマであれば不当解雇の可能性がある
会社が存続していくためには、利益を上げていかなければなりません。そのために一定のノルマを設定すること自体は合理的なものと考えられます。
営業ノルマを達成した労働者に対してインセンティブ報酬を与えることによって、目標達成に向けたモチベーションも向上しますし、会社としても多くの利益を上げることにつながります。
しかし、そもそも達成できないようなノルマが設定されていることもあります。このような場合に、ノルマが達成できないことを理由として労働者を解雇することがありますが、そのような解雇は、不当解雇にあたる可能性があります。
会社が労働者を解雇するためには、労働契約法が定める厳格な要件を満たす必要があります。ノルマの不達成を理由とする解雇は、労働者の能力不足を理由とする解雇になりますが、不当なノルマが設定されていた場合には、労働者の能力とは無関係な事情による解雇となるからです。
ノルマが達成できないことを理由に解雇をされた場合には、ノルマの内容次第では、不当解雇の可能性がありますので、直ちに解雇を受け入れるのではなく、解雇の不当性を主張して争っていくことが大切です。 -
(2)ノルマを強要することはパワハラにあたる可能性もある
厚生労働省の定義によると、パワハラとは「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」であるとされています。
達成できないようなノルマであるにもかかわらず、ノルマの達成を強要されることは労働者に対して精神的苦痛を与えるものといえますので、パワハラに該当する可能性があります。
このようなパワハラを受けた場合には、会社に対して、損害賠償請求をすることが可能です。
2、クビと言われたときしてはいけないこと
会社からノルマを達成できないことを理由にクビにされた場合には、以下のような行動をとってはいけません。
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(1)退職勧奨を受けたとしてもすぐに同意しない
ノルマ不達成を理由とする解雇は、不当解雇に該当する可能性もありますので、解雇の有効性についての争いを回避するために、会社としては解雇ではなく合意退職という扱いにしようとすることがあります。
そのような場合に行われるのが退職勧奨です。退職勧奨とは、会社が労働者に対して、退職を勧める行為をいいます。退職勧奨は、合意退職の申し込みや申し込みの誘因に過ぎず、それ自体によって労働契約が終了するものではありません。退職勧奨に応じて退職するかどうかは労働者の自由ですので、ノルマ不達成を理由とする退職勧奨に納得がいかない場合には、退職勧奨に応じる必要はありません。
実質的には解雇であるにもかかわらず、退職勧奨に応じて退職合意書にサインをしてしまうと、後日不当解雇を理由に解雇の有効性を争うことが困難になります。
そのため、退職勧奨を受けたとしても、すぐに退職勧奨に応じることのないように注意しましょう。 -
(2)解雇予告手当の請求・受領
会社が労働者を解雇する場合は、解雇日の30日以上前に労働者に対して解雇の予告をしなければなりません。解雇予告期間が30日より短い場合には、不足する日数に相当する手当を支払わなければならず、これを「解雇予告手当」といいます(労働基準法20条1項)。
解雇予告手当を請求し、受領することは、有効な解雇を前提とする行動となってしまいますので、解雇の有効性を争う場合には、解雇予告手当の請求・受領はしない方が無難です。
会社が一方的に解雇予告手当の支払いをしてきた場合には、法務局に供託をするか、解雇後の賃金として受領する旨の文書を作成し、内容証明郵便によって送っておくとよいでしょう。 -
(3)失業保険の受給
会社から解雇されてしまった場合には、たとえ不当解雇であったとしても解雇の有効性についての判断が確定するまでは、会社から賃金を受け取ることができません。
労働者としては、その間の生活費が足りなくなることから、失業保険の受給を検討することになるでしょう。
しかし、失業保険の受給は、失業したことを前提とする行動になりますので、不当解雇を争うこととは矛盾する行動になってしまいます。このような矛盾した行動をとってしまうと、後日の裁判で不利に扱われる可能性がありますので、失業保険の受給は避けるべきだといえます。
ただし、失業保険には仮給付という制度がありますので、そちらを利用することによって、不当解雇を争うことと矛盾することなく、失業保険の基本手当などを受給することができます。不当解雇を争う場合には、失業保険の仮給付を利用するようにしましょう。
3、退職勧奨されたときにすべきこと
会社から退職勧奨を受けた場合には、退職勧奨に応じて退職するかどうかによって、以下の対応をする必要があります。
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(1)退職勧奨に応じて退職する場合
不当なノルマを設定するような会社では仕事をしたくないという場合には、退職勧奨に応じて退職することも選択肢のひとつとなります。
ただし、退職勧奨に応じて退職するとしても、そのまますぐに退職するのは避けましょう。退職勧奨をする会社としても、解雇の有効性を争われる可能性のある解雇よりも、合意による退職を選択したいと考えますので、交渉次第では退職時の条件の上乗せが可能な場合もあります。
会社から退職勧奨を受けた場合には、退職に応じる条件として通常よりも多い退職金を要求する、自己都合退職ではなく会社都合退職にしてもらえるよう求める、などを検討してもよいでしょう。 -
(2)退職勧奨に応じない場合
退職勧奨を受けたとしても、それに応じて退職するかどうかは労働者の自由です。そのため、会社を辞めるつもりがない場合には、退職勧奨を拒むようにしましょう。
その際には、退職勧奨を拒否することをはっきりと明示することが大切です。会社から執拗(しつよう)な退職勧奨がなされている場合には、明確に拒否したことを明らかにするためにも、口頭だけではなく、メールや書面によって退職の意思がないことを伝えるようにしましょう。
4、不当に解雇されそうなときは弁護士に相談を!
会社から不当に解雇されそうになった場合には、一人で悩むのではなく弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)解雇や退職勧奨をされた際の具体的な対応をアドバイスしてもらえる
会社から解雇をされた場合や退職勧奨を受けた場合には、突然のことで動揺してしまう方も少なくないでしょう。
しかし、本来は「解雇」であるにもかかわらず、会社の求めに応じて退職合意書にサインをしてしまうと「合意退職」とみなされてしまい、後日解雇の有効性を争うことが困難になってしまいます。
そのため、解雇や退職勧奨をされた方やされる可能性があるという方は、ご自身で対応する前に、早めに弁護士に相談をすることが大切です。具体的な状況に応じた対応方法を弁護士がアドバイスしますので、誤った対応をしてしまうリスクを軽減することができます。 -
(2)不当解雇の交渉は弁護士が担当
会社から不当解雇をされてしまった場合には、解雇の撤回を求めて会社と交渉をしていくことになります。
弁護士であれば、労働者の代理人として会社と交渉を進めることができますので、労働者個人で対応するよりも会社が話し合いに応じてくれる可能性が高くなるといえるでしょう。
また、弁護士が交渉の窓口となることによって、労働者本人が会社と直接話し合いをする必要がなくなりますので、精神的な負担も大きく軽減されるといえます。
交渉で解決ができない場合であっても、労働審判や裁判などの法的手段によって解雇の有効性について争うことができます。ひとりで対応が難しい場合には、弁護士のサポートを求めるとよいでしょう。
5、まとめ
ノルマが達成できないことを理由にクビにされた場合、不当解雇の可能性があります。解雇の不当性をしっかりと主張していくことによって、解雇が無効となり会社に復帰することが可能になります。
また、すでに転職・再就職しているという場合でも、不当解雇を争うことによって、解雇日以降の賃金の支払いを受けることができることがありますので、諦める必要はありません。
会社から不当な解雇をされてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています