公務員の懲戒免職とは? 再就職や退職金の扱いや納得できない場合
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令和6年5月、浜松市の路上で同僚に暴力をふるった県職員に懲戒処分が下されたという報道がありました。
県や市の職員はもちろん教員など公務員は、懲戒処分の基準が規定されています。
本コラムでは、公務員の懲戒免職の概要や、懲戒免職となる可能性のある行為、判断基準などについてベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、公務員の懲戒免職とは
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(1)懲戒免職の概要
公務員に対する懲戒処分とは、職員の義務違反又は非行等に対して、任命権者が公務員関係における秩序を維持する目的をもって職員に科す制裁としての処分のことを指します。
公務員個人と国や地方公共団体との間には契約関係がないため、公務員の労働問題については、労働契約法や労働組合法の適用がありません。また一般職国家公務員については労働基準法の適用も排除されています(一般職地方公務員には一部適用があります)。
公務員関係のルールについては、地方公務員法や国家公務員法、人事院規則、条例などによって規律されています。
公務員の懲戒処分の種類については、以下の4つがあります。- 免職:職員としての身分を失わせる懲戒処分
- 停職:一定の期間内の範囲で職務に従事させない懲戒処分。給与は支給されない。
- 減給:一定の期間内の範囲で給料を減額して支給する懲戒処分
- 戒告:職員の義務違反に対してその責任を確認し、将来を戒める懲戒処分
以上の懲戒処分以外に、実務上、「訓告」、「厳重注意」、「口頭注意」などが行われることもあります。これらは懲戒処分に至らない程度の行為に対して行われる一般的な注意や矯正措置です。これらによって直接法的な効果は生じません。
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(2)分限処分と懲戒処分との違い
それでは、公務員に対する「分限処分」と「懲戒処分」との違いはどこにあるのでしょうか。
まず、「分限処分」とは、職員の身分保障を前提としつつ、公務能率の確保等の観点から、当該職員を官職あるいは職務から排除することをいいます。
これに対して「懲戒処分」とは、公務員の義務違反や、非行等に対してその道義的責任を追及し、公務の秩序維持の観点から行われる制裁を指します。
具体的な分限処分は、以下のとおりです。-
免職・降任
分限処分としての免職は、職員をその意に反して退職させることをいいます。また降任とは、職制上の地位が低くなることをいいます。
これらの分限処分を行う場合には、法律に基づく要件に該当している必要があります。 -
休職
休職とは、職員としての身分を保有したまま職務に従事させないことをいいます。
たとえば、心身の故障のため長期休養が必要な場合や、刑事事件に関して起訴された場合には休職処分がなされます。 -
降給
降給とは、職員についてすでに決定されている給料の額よりも低い額の給料に決定することをいいます。
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免職・降任
2、懲戒免職となる可能性の高い行為や判断基準
人事院は懲戒処分の指針を公表しており、懲戒免職になる可能性が高い行為やその判断基準が明らかにされています。
また、浜松市としても、「浜松市職員の懲戒処分に関する基準」を定めており、これを基準にして処分が下されます。本章では、浜松市職員が懲戒免職となりうる行為の標準例について紹介します。なお、懲戒処分が行われる際、ここに掲載していない停職や減給、戒告にあたる行為であっても、個別事例によっては重い処分を受ける可能性がある点に注意が必要です。
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(1)一般服務関係
一般服務に関する行為のうち、懲戒免職となりうる行為は以下のようなものです。
- 収賄
- 倫理条例違反(利害関係者との禁止行為のうち、金銭、物品、不動産の贈与を受ける行為や無償での役務の提供)
- 正当な理由なく21日以上欠勤した場合
- 争議行為など
- 秘密漏洩
- 個人情報の不当利用など
- セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント
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(2)公金官物取扱い関係
公金や官物の取り扱いに関する行為のうち、懲戒免職に相当する行為は以下のとおりです。
- 公金または官物を横領した場合
- 公金または官物を窃取した場合
- 公金または官物を詐取した場合
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(3)公務外非行関係
公務時間外における非行に関する行為のうち、懲戒免職に相当する可能性がある行為は以下のとおりです。
- 放火、殺人、強盗
- 横領、窃盗
- 詐欺、恐喝
- 麻薬、覚醒剤等の所持、または使用
- わいせつ行為等
- ストーカー行為
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(4)飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
飲酒運転・交通事故・交通法規違反に関するそれぞれの行為については、以下の処分が行われます。
懲戒
- 酒酔い運転や酒気帯び運転
- 飲酒運転のほう助をした場合
- 飲酒運転の車に同乗した場合
- 悪質な交通違反による死亡事故を起こし措置義務違反を行った場合
- 悪質な交通違反による傷害事故を起こし措置義務違反を行った場合
3、公務員が懲戒免職されるとどうなるのか
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(1)退職金の支給や年金の扱い
公務員が懲戒免職を受けると、退職手当等の全部または一部を不支給とする処分が行われる可能性があります。
懲戒免職となった職員について、国家公務員退職手当法12条には、以下のように規定されています。
「当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任、当該退職をした者が行った非違の内容及び程度、当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して、当該一般の退職手当等の全部または一部を支給しないこととする処分を行うことができる」
同法運用方針においても、非違の発生抑止の目的から一般の退職手当等の全部を支給しないことを原則とすることが定められているのです。また、停職以上の懲戒処分を受けた公務員に対しては、退職年金又は公務障害年金の全部または一部が支給されない場合があります。
地方公務員の退職金については、条例で定められます。 -
(2)公務員として再就職できるのか
公務員が懲戒免職処分を受けると、処分の日から2年間は官職に就くことができません。
したがって、懲戒免職から2年が経過しない間は公務員として再就職することはできず、職員採用試験を受けることもできないということです。 -
(3)氏名を公表されてしまうのか
浜松市では、職務の遂行に関わる懲戒処分や職務外の非行などでの停職以上の処分については、個人が識別されない範囲で、下された処分や処分を受けた方の属性などが公表されます。ただし、社会的影響の大きさや事案の内容によっては氏名や所属名を公表されることがある点に注意が必要です。場合によっては、実名報道されてしまうケースもあります。
なお、一般企業の面接を受ける際に、前職の退職理由について虚偽を述べると入社後に社会保険や雇用保険の加入手続きの際に発覚するおそれがあるでしょう。事後的に虚偽申告が発覚した場合には、内定取り消しや本採用拒否となってしまう可能性があることは覚えておくべきです。
4、懲戒免職に納得ができない場合にできることは?
懲戒処分や分限処分については、行政に広い裁量権があります。
しかし行政裁量があるといっても無制限に懲戒免職ができるわけではありません。
行政の判断に事実誤認がある場合や、処分の選択に合理性を欠くという場合には、適切に不服申し立てをしていく必要があります。
- 行政庁に対して不服審査を求めて審査請求を行う
- 懲戒免職処分の取り消しを求めて裁判所に訴訟を提起する
- 退職手当の不支給処分の取り消しを求めて裁判所に訴訟を提起する
懲戒免職はその処分を受けた公務員に非常に大きな不利益をもたらすことになります。したがって当該処分が、適切な事実調査・事実認定、適切な手続きを踏んで出されたものか否かという点は非常に重要です。
上記のような審査請求や取消訴訟を行う場合の対応は、私企業の労働事件とは異なり複雑な法制度となっていることから、行政事件の経験が豊富な弁護士に依頼すべきでしょう。どのような事実が認定され、どのような懲戒事由に該当すると判断されたのか、免職という処分の選択は相当なのか、という点について過去の事例や裁判例などからアドバイスや法的サポートを受けることができます。
5、まとめ
浜松市の公務員が懲戒免職になりうる、処分の概要や対象となりうる行為は多種多様です。これぐらい大丈夫、などとSNSなどで職務を通じてでしか知りえない情報を書いてしまうことなども、懲戒免職処分が下されてしまう可能性があります。
公務員には労働契約法などの適用が除外されていますが、処分の審査請求や懲戒処分の取り消し訴訟を提起することはできます。懲戒免職になりそうで不安な方や、受けた懲戒処分に不服がある場合は、弁護士への相談を検討してみるのもひとつの手となるでしょう。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています