弁護士が解説! 相続手続きを放置すると起こりうるトラブルとは

2021年12月14日
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弁護士が解説! 相続手続きを放置すると起こりうるトラブルとは

浜松市が公表している統計データによると、令和元年の浜松市内の死亡者数は8447人でした。平成27年からの統計データを比較すると毎年8000人前後の方が亡くなっていることがわかります。

相続は、人の死亡によって開始しますので、大切なご家族が亡くなった場合には、その後、相続手続きを行わなければなりません。しかし、相続手続きには、名義変更や相続登記などさまざまなものがありますので、面倒だからといって後回しにしたまま放置してしまう方もいらっしゃるかもしれません。相続手続きを放置することには、どのようなデメリットがあるのでしょうか。

今回は、相続手続きを放置することによって起こりうるトラブルについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。

1、相続税や相続放棄、遺留分侵害額請求には期限がある

相続手続きのなかには、一定の期限内に行わなければならない手続きも存在します。以下では、期限の存在する手続きのうち、代表的な「相続税」、「相続放棄」、「遺留分侵害額請求」について説明します。

  1. (1)相続税の期限

    相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税申告書の提出義務が課されます。相続税の申告期限は、相続の開始があったと知った日の翌日から、10か月以内とされています。また、相続税を実際に支払う納付期限についても、相続税の申告期限と同じとされています。

    10か月というと余裕があると思われるかもしれませんが、期限までに資料をそろえて、財産の評価を行い、資産分割協議を成立させる必要がありますので、時間的な余裕はあまりありません。そのため、相続が開始した場合には、すぐに相続手続きに着手する必要があります。

    相続税の申告期限内に申告を行わなかった場合には、延滞税や加算税が課税されるだけでなく、相続税に関する各種特例が利用することができないといったペナルティーが課されます。特例の適用によって相続税の税額が大きく異なりますので、期限を過ぎないよう注意が必要です。

  2. (2)相続放棄の期限

    被相続人に借金があった場合には、それも相続によって相続人に引き継がれることになります。マイナスの財産がプラスの財産を上回っているような場合には、遺産を相続するメリットがないため、相続放棄の手続きを検討することになります。

    相続放棄をするためには、家庭裁判所に相続放棄の申述を行わなければなりません相続放棄の申述は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行わなければなりません

    いったん相続放棄をしてしまうと後日多額の遺産が見つかったとしても、基本的には相続放棄を撤回することができません。そのため、相続放棄をする際には、プラスの財産とマイナスの財産を正確に調査して把握することが大切です。

  3. (3)遺留分侵害額請求の期限

    相続人には、遺留分が保障されています。遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない、遺産の一定の割合の留保分のことです。相続の場面では、被相続人の意思が重要視されますので、被相続人が遺言書などによって特定の相続人にすべての遺産を相続させることも可能です。しかし、その場合には遺産を受け取れると期待していた他の相続人の利益を侵害することになります。遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人に対して、遺留分侵害額請求を行えば、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。

    遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年以内に行わなければなりません

2、期限がない不動産、預金、株式も放置するとリスクがある

実は、遺産分割自体には期限がありませんので、遺産分割をせずに財産を放置してしまうこともできてしまいます。しかし、遺産である「不動産」、「預金」、「株式」については、放置することによって、以下のようなリスクが生じます。

  1. (1)不動産を放置するリスク

    相続の開始によって不動産は共同相続人による共有状態となります。遺産分割を行わずにそのまま放置していると、時間の経過とともに相続人も代替わりしていき、2次相続、3次相続が発生することになります。相続が発生する度に不動産を共有する相続人が増えていくことになりますので、権利関係が複雑になるというリスクがあります

    あまりにも長期間放置をしていると、相続手続きを行おうと思っても誰が相続人(共有者)なのかがわからないという事態が生じてしまいます。

  2. (2)預金を放置するリスク

    最後に入出金を行ってから10年以上利用がない預金口座については、休眠預金等活用法により、休眠口座として扱われることになります。休眠口座の資金については、民間の公益活動に活用するとされていますので、「預金が没収されてしまう」と考える方もいるかもしれません。しかし、休眠口座になったからといって預金が没収されることはなく、所定の手続きをとることによって払い戻しを受けることは可能です

    ただし、金融機関によっては、休眠口座に手数料を設定しているところもありますので、長期間預金を放置すると手数料の引き落としによって預金残高が目減りするというリスクがあります。

  3. (3)株式を放置するリスク

    上場株式は、日々株価に値動きがありますので、株式の名義変更を行うことなく放置していると気付かないうちに株価が値下がりして、ほとんど価値がなくなってしまうという可能性もあります

    また、株式の名義書き換えを行わないと、株式配当通知などが相続人のもとに届きませんので、配当金を受け取ることもできなくなります。5年間通知が届かない状態が続くと、会社によって株式の買い取りや競売をされてしまい、株主としての権利を失うリスクもあります

    買い取りや競売による売却代金については、相続人に支払われますが、売却代金の請求についても5年または10年という時効がありますので注意が必要です。

3、遺産分割協議が進まないなら、弁護士に相談を

相続人同士で争いがあるなどの理由で遺産分割協議が進まないような場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)適切な相続財産調査が可能

    遺産分割協議を行う前に、被相続人がどのような財産をどの程度有していたかを調べる必要があります。相続財産に漏れがあった場合には、再度遺産分割協議を行わなければならないという負担が生じますので、正確な相続財産調査が重要です

    弁護士であれば、どこにどのような照会をすれば相続財産の全容を明らかにすることができるかを熟知していますので、迅速かつ適切に相続財産調査を行うことができるでしょう

  2. (2)話し合いをしなければならないストレスから解放される

    遺産分割協議は、相続人全員が遺産分割方法に合意をしなければ成立しません。そのため、合意を得るために相続人同士で話し合いを行うことになりますが、お互いが自分の意見を主張し合うと、どうしても衝突が生じてしまいます。時には感情的になってしまい、冷静な話し合いができず、話し合い自体がストレスに感じることもあります。

    そのような場合でも、弁護士であれば相続人の代理人として遺産分割協議に参加することができますので、ストレスの多い話し合いに巻き込まれるという負担はなくなります。面倒な遺産分割の手続きをすべて任せることができますので、その点でも安心です。

  3. (3)有利な条件で遺産分割を行うことができる

    遺産分割をする際には、どのように遺産を評価するか、どのような分割方法を選択するかによって最終的に取得することができる相続分が大きく変わってきます。また、特定の相続人が被相続人の生前に贈与を受けていたような場合には、特別受益の持ち戻しを主張することによって、公平な遺産分割を実現することもできます。

    このように少しでも有利に遺産分割を進めたいと考えた場合には、相続に関する知識や経験が不可欠です。そのため、相続に詳しい弁護士に依頼をすることによって、有利な条件で遺産分割を行うことができる可能性が高まります

4、協議が物別れに終わるなら、裁判所で調停を

遺産分割協議ではまとまらなかった場合には、裁判所の手続きを利用して解決を図ることになります。

  1. (1)遺産分割調停

    遺産分割協議では遺産の分割方法について相続人の間で話し合いがまとまらなかった時には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てます

    遺産分割調停では、ふたりの調停委員が相続人の間に入って、相続に関する争いの解決に向けて助言や解決案の提示などを行ってくれます。

    当事者同士だけでは、話し合いがまとまらないという場合であっても、第三者である調停委員が間に入ってくれることで、スムーズな話し合いを進めることが可能となります。遺産分割調停で相続人全員の合意が得られた場合には、その内容が調停調書にまとめられ、調停は終了となります。

    他方、調停でも話し合いがまとまらない場合には、調停不成立となり、後述する遺産分割審判に移行します。

  2. (2)遺産分割審判

    遺産分割調停が不成立となった場合には、特別な申し立てを必要とせず、自動的に遺産分割審判の手続きが開始します。遺産分割調停は、相続人による話し合いの手続きでしたが、遺産分割審判は、当事者の主張立証、遺産の種類や性質など一切の事情を考慮して、裁判官が遺産の分割を判断することになります。

    そのため、必ずしも当事者が希望した内容の遺産分割方法になるとは限りません裁判所の審判の内容に不服がある場合には、高等裁判所に不服申し立て(即時抗告)をすることが可能です

  3. (3)遺産分割に関する裁判

    遺産分割自体は、上記のように遺産分割調停や遺産分割審判によって解決できます。しかし、相続人の範囲や遺産の範囲に争いがあるケース、勝手に預金が引き出されていたなどの使途不明金の問題があるケースなど、遺産分割の前提事実に争いがある場合には、それを確定してからでなければ、遺産分割調停や遺産分割審判を行うことができません。

    そのため、このような遺産分割の前提事実に争いがある場合には、裁判によってその事実を確定させる必要があります

5、まとめ

遺産分割自体には期限がありませんが、相続手続きには期限が設けられているものもありますので、相続が開始した場合には、速やかに相続手続きに着手する必要があります。

当事務所では、税理士や司法書士も在籍しておりますので、相続にまつわる手続きをワンストップで行うことが可能です。また、当事務所内には遺産相続専門チームがあり、日夜研鑽を積んでおりますので、ご依頼いただいた場合には、浜松オフィスの弁護士と専門チームが連携して、問題解決に当たります。

ひとりではどのような手続きを行えばよいかわからず不安だという方は、相続手続きを放置せず、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています