相続の覚書は効力を持つの? 確認方法や無効・有効となるケースを紹介
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令和3年(2021年)の浜松市の出生者数は5355名、死亡者数は8882名でした。亡くなられた方がいれば、財産が多くともマイナスであろうとも、必ず相続が発生するものです。また、たとえ生まれたばかりであっても親族の財産を相続する権利は有しています。
遺産相続に関しては、被相続人と相続人の間や、相続人同士の間などにおいて「覚書」が締結されることがあります。ただし、相続に関する覚書を発見した際には、その覚書が法的に効力を持つかどうかを確認する必要がある点に注意してください。
本記事では、相続における覚書の法的効力や確認方法について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、覚書とは?
「覚書」とは、複数の当事者の間で合意した事項をまとめた書面のことを指します。
相続においては、被相続人と相続人の間で、または相続人同士の間で覚書が締結されることがあります。
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(1)相続に関する覚書の例
相続に関して締結される覚書の内容としては、以下のような例が挙げられます。
- ① 被相続人と相続人の間で締結する覚書:被相続人が亡くなった際に、特定の遺産を相続人に贈与する内容の覚書が締結されることがあります(死因贈与)。
- ② 相続人同士の間で締結する覚書:「特定の遺産の分割方法について、相続人全員で合意する」や「将来新たに遺産が判明した場合に、分割方法に関するルールを決める」など、遺産分割協議書に記載すべき内容の一部を切り出すかたちで、相続人同士の間で覚書が締結されることがあります。
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(2)覚書の法的効力
覚書は、契約書などと同様に、原則として締結した当事者を拘束します。
たとえば、被相続人と相続人の間で死因贈与の覚書が締結された場合には、被相続人の死亡した時点で贈与の効力が発生して、対象財産の所有権は被相続人から相続人へ移転します。
また、相続人同士で特定の遺産の分割方法を合意する覚書を締結した場合には、原則として、当事者である相続人は後日にその内容と矛盾する主張をすることができません。
2、覚書の効力を判断するためのチェックポイント
例外的な場合ですが、覚書が無効と判断されたり、取り消されたりしてしまうことがあります。
以下では、覚書の効力を判断するために確認すべきポイントを解説します。
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(1)当事者等の署名・押印があるか
覚書は、当事者自身または権限ある代理人によって締結されなければなりません。
無権限者が締結した覚書は無効となります。
当事者または権限ある代理人が締結したことを証明するためには、署名もしくは押印またはその両方が用いられるのが一般的です。
当事者または権限ある代理人の署名や押印がない覚書は、無効と判断されるリスクが大きいといえるでしょう。 -
(2)締結当時において、当事者に意思能力があるか
覚書の締結は、当事者に対して法的拘束力を生じる法律行為です。
そのため、締結の時点で当事者に意思能力(自らの法律行為によって生じる結果を理解し、判断する能力)がない場合には、覚書は無効となります(民法3条の2)。
ただし、意思能力のない当事者について法定後見人または任意後見人が選任されており、その権限の範囲内で締結された覚書は、例外的に有効となります。 -
(3)内容が明確であるか
覚書の内容が不明確である場合には、不明確な条項およびその条項と密接に関連する条項が無効となることがあります。
とくに、2通り以上の意味に解釈できる条項については、不明確であることを理由に無効となるリスクが高いことに注意が必要です。
覚書を締結する際には、すべての条項を明確な文言で記載することが大切です。
合意内容の記載方法が分からない場合は、弁護士に相談して案文を提案してもらうことも検討してください。 -
(4)内容が公序良俗に反していないか
覚書の内容が公序良俗に反している場合は、その全部または一部が無効となるおそれがあります(民法第90条)。
覚書の内容が反社会的である場合だけなく、当事者に過酷すぎる義務を課すものである場合にも、覚書の全部または一部が無効となる可能性があることに注意してください。 -
(5)生前の遺産分割を内容としていないか
相続人が遺産分割を行うことができるのは、被相続人が亡くなって相続が開始した時点以降に限られます。
したがって、被相続人の生前において、被相続人と相続人の間で、または相続人同士の間で遺産分割の合意をしたとしても、その合意は無効となります。
この場合には被相続人の死後に改めて遺産分割を行う必要がありますが、相続人が無効となった覚書の内容に拘束されることはありません。 -
(6)当事者の意思表示に瑕疵(かし)がないか
覚書を締結する意思表示に何らかの瑕疵がある場合は、その意思表示が取り消されることがあります。
当事者が覚書を取り消すことができるのは、主に以下のような場合です。① 錯誤(民法第95条)
覚書の内容について、言い間違いなど重要な勘違い(「錯誤」)があった場合は、覚書締結の意思表示を取り消すことができます。
また、覚書を締結する重要な動機に関して錯誤があり、その事情が他の当事者に対して表示されていた場合にも、意思表示の取り消しが可能です。
ただし、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合は、相手方が錯誤を知り、もしくは重大な過失によって知らなかったとき、または相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときを除いて、覚書を取り消すことはできません。
② 詐欺(民法第96条)
他人が言ったうそを信じたことによって覚書を締結した場合は、詐欺を理由にその意思表示を取り消すことができます。
ただし、詐欺を行ったのが覚書の当事者ではない第三者である場合には、他の当事者が詐欺の事実を知り、または知ることができた場合に限って取り消しが認められます。
③ 強迫(民法第96条第1項)
他人から暴行または脅迫を受けたことによって覚書を締結した場合は、強迫を理由にその意思表示を取り消すことができます。
3、相続に関する覚書が有効となるケース
当事者が適切なかたちで合意すれば、覚書は有効となり、当事者に対して法的拘束力を有します。
たとえば以下のようなケースにおいては、覚書は有効であると考えられます。
相続人全員の間で、相続財産に含まれる不動産XをAに相続させる旨の覚書を締結した。
覚書の締結当時において相続人の全員が完全な意思能力を有しており、全員が納得したうえで自ら覚書に署名と押印を行った。
また、覚書の内容は不動産の相続に関する事項のみであり、不明確な内容や公序良俗に反する内容などは含まれていなかった。
4、相続に関する覚書が無効となるケース
以下では、覚書が無効になるケースを紹介します。
相続人A・B・Cの間で覚書を締結した。Aは覚書の締結に同意するような反応を見せていたものの、締結当時においてAには意思能力がなかった。
(このケースでは当事者の一部が意思能力を欠いているので、覚書は無効となります。)
AがBに対して不動産を贈与する旨の覚書を締結したが、Aは不動産を多数所有しており、贈与する不動産を特定し得る情報が覚書に全く記載されていなかった。
(このケースでは覚書の内容が不明確であるため、不動産の贈与は無効となります。)
AがBに対して不動産Xを贈与する代わりに、Bを強制労働に従事させるという内容の覚書を、AとBの間で締結した。
(労働基準法によって強制労働は禁止されているため、このケースでは、覚書による負担付贈与は無効になると考えられます。)
被相続人Aの生前において、Aと相続人B・C・Dの間で、遺産をすべてBに相続させる旨の覚書を締結した。
(このケースのように被相続人の生前の段階では、遺産分割について合意することはできません。)
相続人A・B・Cの間で、相続財産である預貯金をすべてAが相続する旨の覚書を締結した。しかし、実際の預貯金総額は1億円だったところ、AはBとCに対して1000万円だとうそをついており、BとCはそれを信じていた。
(このケースにおいては、BまたはCが詐欺によって意思表示を取り消した場合、覚書は締結時にさかのぼって無効となります。)
5、まとめ
相続に関して覚書を締結する場合には、無効にならないように形式や内容について注意すべきポイントが複数あります。覚書を作成する際には、思わぬ理由から無効になってしまう事態を避けるために、相続についての知見が豊富な弁護士に依頼してアドバイスをもらったりチェックしてもらったりすることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスでは遺産相続に関するご相談を承っております。相続財産および相続人の調査、遺産分割、遺留分侵害額請求、遺言書の作成(自筆証書遺言・公正証書遺言など)、相続放棄など、幅広い手続きについて弁護士によるサポートが可能です。
遺産相続の手続きについて分からないことがある方や、相続トラブルへの対処にお悩みの方は、まずはお気軽にご連絡ください。
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