同性婚の養子縁組は相続対策になる? 同性パートナーへ財産を残す方法を解説

2021年09月09日
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同性婚の養子縁組は相続対策になる? 同性パートナーへ財産を残す方法を解説

令和2年4月より浜松市でパートナーシップ宣誓制度がスタートしました。LGBTのカップル、婚姻を選択しないカップルなどさまざまな家族の形態を公認する制度として、全国の自治体に広がりをみせています。

ところで、家族の問題の一つである相続には、パートナーシップ制度により変化はあるのでしょうか。

今回のコラムでは、同性カップル間の相続に関して、
● パートナーシップ制度は相続対策になるのか
● 養子縁組のメリットとデメリット
● 遺言による遺贈の有効性
について弁護士が解説します。

1、パートナーシップ制度は相続対策になる?

パートナーシップ制度は相続に影響はあるのでしょうか。

  • パートナーシップ制度はどのような制度なのか
  • 婚姻や養子縁組との違い
  • 同性のパートナーに財産を残す方法

について解説します。

  1. (1)パートナーシップ制度とはどのような制度?

    パートナーシップ制度は、戸籍上の性別に関わらず婚姻関係にないカップルを地方自治体が公証する制度です。

    自治体によって同性カップルのみの場合と、異性カップルも利用できるところがあります。浜松市では、成年に達していること、少なくともどちらか1人が浜松市民であること、配偶者がいないこと、宣誓者以外の人とパートナーシップの関係にないこと、宣誓者同士が近親者でないことが要件となっています。(浜松市ホームページより)

    パートナーシップ制度の導入により、従来は「配偶者」など家族に限定していたサービスを同性のカップルにも拡充するなど、生活面では徐々に変化をもたらしてきています。
    一方で、パートナーシップ制度は法律上の関係や地位を付与するものではありません
    法律上の婚姻関係や親子関係が条件となる相続では、パートナーシップ制度により権利義務が変動することはありません。

  2. (2)パートナーシップ制度と婚姻や養子縁組との違い

    現時点における「同性婚」の法的、社会的位置づけはどのようになっているのでしょうか。
    パートナーシップ制度により公認されたカップルと法律上の婚姻、養子縁組の違いをまとめると次のようになります。

    パートナーシップ制度婚姻養子縁組
    法的な親族関係なしありあり
    相続権なしありあり
    生命保険金の受取人なれる保険商品ありなれるなれる
    名字そのまま一方の姓を選択原則養親の姓
    社会保険の扶養異性の内縁関係の場合「配偶者」としての実態があれば配偶者と同様に扱われるなれるなれる
    関係解消時の財産分与異性の内縁関係の場合、類推適用により認められる可能性あり請求できるなし

    なお、異性間の内縁関係は、昭和33年4月11日の最高裁判決において、
    「男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない」
    と理由中の判断で示され、このような内縁関係を法律実務では「準婚姻関係」といいます。
    準婚姻関係にある内縁関係は、法律上の婚姻関係と同様に保護される場面も多く、世間的にも「事実婚」として認知されています。

    一方、同性パートナーシップ制度は平成元年(1989年)にデンマークで導入されたのを皮切りに、日本では平成27年に渋谷区と世田谷区で初めて導入されたばかりの新しい制度です。

    同性カップルを巡る地方裁判所レベルの裁判例には、

    • ● 同性カップルでも内縁関係と同視できるものは内縁関係に準じた法的保護に値する(令和元年9月18日 宇都宮地裁真岡支部)
    • ● 同性カップルに婚姻によって生じる法的効果を享受する法的手段がないのは、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する(令和3年3月17日 札幌地裁)

    としたものもあり、今後事実婚と同様に「同性婚」の法的権利が拡大していくことも考えられます。

  3. (3)同性のパートナーに財産を残す方法は?

    民法では、相続人になるのは一定の親族関係にある人と規定しているため、同性のパートナーに財産を残すには特段の法律行為が必要です。

    よく用いられる方法としては、養子縁組や遺言があります

    また、生命保険の中には同性パートナーを保険金受取人とできる保険商品もあるため、相続と組み合わせて財産を残す方法のひとつとして活用できるでしょう。

2、養子縁組のメリット

同性カップルが法律上の親族関係を形成する手段は、現時点では養子縁組のほかにありません。

  • 養子縁組とはどのような制度なのか
  • 法定相続人となるメリット
  • 税制上の優遇措置

について解説します。

  1. (1)養子縁組はどのような制度?

    養子縁組は、養子と養親、及びその血族との間において、養子縁組の日から、血族間におけるものと同一の親族関係を、生じさせる制度です(民法727条)。未婚の成人同士の場合、当事者の合意により成立させることができます。
    養子縁組は、年長者を養親としなければならず、原則として両名とも姓は養親の氏を名乗ることになります(民法793条、810条)。

    養子縁組が成立すると、養子は嫡出子の身分を取得することになり(民法809条)、法律上血のつながった親子と同じ扱いを受けることになります。

    なお、養子は養親の親族(養方)と親族関係が発生し、養子からみて養親の親は祖父母、養親の兄弟姉妹はおじ、おばの関係となります
    また、養子は縁組前の親族関係(実方)もそのまま存続します。

  2. (2)法定相続人となるメリット

    養子縁組により法律上の親子関係となった場合、相続で以下のようなメリットがあります。

    ① 法定相続人であれば遺言がなくても相続できる
    法律上の親子関係となることで、養親子の相続関係は、

    • 養親が亡くなった場合は養子が法定相続人(第1順位)
    • 養子が亡くなった場合、養子に子どもや孫がいない場合に限り養親が法定相続人(第2順位)
      となります。

    養親に子ども(他の養子や婚外子を含む)がいない場合は、養子が唯一の法定相続人となり、すべての財産を相続することが可能です
    養子に子どもがいる場合は子どもが法定相続人となりますが、子どもがいない場合は、養親が法定相続人となります。ただし、実方の親が存命であれば共同相続人となります。

    ② 遺留分によるトラブルがなくなることも
    兄弟姉妹以外の相続人には、相続権だけではなく、遺留分という権利も発生します。

    遺留分は、相続権のある法定相続人が最低限の遺産を受け取ることを保障する権利です。
    同性カップルが養子縁組をすることなく一方が亡くなった場合、子どもや孫、親や祖父母がひとりでも存命であれば、遺留分が発生します(兄弟姉妹が法定相続人となる場合、遺留分はありません)。

    仮に全財産をパートナーに遺贈する遺言をした場合でも、

    • 子どもが法定相続人である場合は全遺産の2分の1
    • 親が法定相続人である場合は全遺産の3分の1

    に相当する金額の遺留分が発生することになります。

    なお、遺留分は遺言でも制限することはできません。

  3. (3)親族であれば税制上の優遇措置がある

    相続税制は次世代への財産引き継ぎを想定して制度設計されており、一定の親族の範囲を超えて財産を引き継ぐ場合は、以下のとおり税制上の扱いが異なります。

    ① 相続税の2割加算
    配偶者や1親等の親族以外の人に相続税が課税される場合、2割加算した税額を納付しなければなりません。
    養子縁組をした養親子は1親等の親族となるため、2割加算の対象にはなりません。

    ② 死亡保険金の非課税枠など
    被相続人が自身を被保険者として契約した生命保険の死亡保険金は、税制上はみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
    ただし法定相続人が保険金受取人である場合は、非課税枠(法定相続人の人数×500万円)による軽減措置が受けられます。

    ③ 不動産の登録免許税
    遺産に不動産がある場合、登記名義を相続人や受贈者へ変更する際に登録免許税が必要となります。
    法定相続人へ登記名義を変更する場合の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%で計算されますが、法定相続人以外の場合は固定資産税評価額の2%となります。

3、養子縁組のデメリット

同性カップルの養子縁組は法律上の親族関係を形成するためのいわば便宜的な手段といえます。

そのため、当事者と周辺の親族との認識や理解に温度差があるケースも少なくありません。
パートナーの一方が亡くなった後で顕在化する可能性がある問題について解説します。

  1. (1)養親が亡くなった後の問題

    養子縁組をした同性パートナーのうち、養親が先に亡くなった場合でも、養子と養方の親族関係は存続します

    その状態で養親の親や兄弟姉妹が亡くなった場合は、養親を代襲して相続人となり、相続トラブルに巻き込まれる可能性があります

    また、民法では直系血族と兄弟姉妹は相互に扶養の義務があると定めており(民法877条1項)、養子には養親の親や祖父母を扶養する法律上の義務があります

    なお、養親が亡くなった後、養子が養方との親族関係を終了させたい場合は、家庭裁判所で死後離縁の許可を受けなければなりません(民法811条6項)。

    死後離縁の手続きで問題視されるのは、相続を目的とした養子縁組でその目的を達成した後に扶養義務を免れる意図で死後離縁をしようとするケースです。

    同性パートナーと養子縁組をする場合、死後離縁の可能性も視野に入れて、養方の親族への配慮も必要といえそうです。

  2. (2)養子が亡くなった後の問題

    養子が先に亡くなった場合、養親と実方の親はともに第2順位の法定相続人となります。
    実方の両親が亡くなっている場合は問題になりませんが、共同相続する場合は遺産分割協議を行わなければなりません。
    実方の親族が養子縁組に理解を示していない場合は、相続トラブルとなる可能性もあります

  3. (3)養子縁組をすると将来婚姻できなくなる?

    あくまで仮定の問題ですが、将来同性婚が法制化された場合は養子縁組が障害となって婚姻できない可能性があります

    現在の民法では、養親子を含む直系血族同士の婚姻は認められておらず(民法734条)、離縁した後もその制限を受ける(民法736条)とされているからです。

    しかし、現在の婚姻に関する規定は、同性婚や同性カップルの養子縁組を想定しておらず、同性婚の法整備がされる場合には制度的な手当てがされることも考えられます。

4、遺言による遺贈は有効な方法か?

同性のパートナーに財産を残したい場合は、遺言も有効な方法のひとつです。

養子縁組をすると戸籍にその記載がされたり、養子となる方は姓が変わったりするので、ハードルが高いと感じられることもあるでしょう。

そういった場合は、パートナーへ財産を残す遺言書を作成することで、相続の問題はある程度クリアすることも可能です。
しかし、養子縁組をする場合と比べると、特に遺留分がネックとなることは避けられません

5、相続の相談は法律の専門家である弁護士が適任

同性カップルの相続対策は、養子縁組や遺言が有効な方法といえますが、これらは二者択一というわけではありません。

養子縁組をした上で遺言書を作成すればより万全な相続対策となり、さらに生命保険契約を活用することで、より円満な相続となる可能性もあります。
相続は近しい人が亡くなった直後に解決しなければならない問題で、必ずしも理性的にことが進むとは限りません。

相続は法律に従って手続きを進める必要があり、生前の相続対策も法律知識が不可欠です。そのため、相続問題のサポートは弁護士が適任といえます。

ベリーベスト法律事務所は、弁護士はもちろん、税理士、司法書士も在籍しており、各分野の専門家がチームとして相続問題をサポートするワンストップサービスを提供しています。
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