無人販売所で窃盗したその後は? 起こりうる逮捕などの可能性
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浜松市内でも無人販売所は人気があるようで、野菜や果物だけでなく、スイーツ、精肉などの無人販売所まで登場しています。24時間営業している店舗も多いことから買い物がより便利になりました。
基本的に無人販売所は、信頼関係で成り立つものです。しかし中には、お金を払わずに商品を持ち帰ってしまう方がいるようです。もちろんそれは窃盗という犯罪行為であり、たとえ無人販売所で窃盗が成功したとしても、その後に刑事事件化して有罪になったら前科がついてしまうことになります。どのように発覚するのか、刑事事件化したらどうなるのかについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、無人販売所の商品を無断で持って帰るのは、どんな犯罪に該当するのか
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(1)無人販売所とは
「無人販売所」とは、野菜などの農産物を置く、無人の販売所のことです。農家や地元の人が、農産物を、市場やスーパーマーケットへの流通経路を通さずに、直接販売することができるシステムで、無人直売所とも呼ばれています。
無人販売所の最大の特徴は、なんといっても販売者が立ち会わない点に特徴があるでしょう。購入者は、気に入った野菜などがあれば、近くに設置された料金箱などに代金を自分で投入して支払います。レジもなく、見ている人もいないので、売り手と買い手の信頼関係で成り立っています。 -
(2)窃盗とは
窃盗罪は、他人の財物を、本人の意思に反し、自己の占有下に置く犯罪です(刑法235条)。他人の家に入って、財布や現金を盗む行為や、他人のかばんから財布をこっそり抜き取る行為が窃盗罪にあたります。
俗にいう、万引きやスリも窃盗の典型例です。なお、物を盗むときに相手を脅したり暴力を加えると、強盗罪が成立する可能性があります(刑法第236条)。その結果、相手が怪我をすると強盗致傷罪を問われます。
窃盗罪の成立には次の三つの要件が必要です。- 窃盗した物が、他人の占有する財物であること
- 他人の占有に属する財物を占有者の意思に反して、自己または第三者の占有下に移転すること
- 不法領得の意思を有していたこと
それぞれの要件について詳しくご説明します。
● 他人の占有する財物
窃盗罪が成立するのは、窃取する対象物が「他人の占有する財物」の場合です。「占有」とは聞きなれない表現ですが、その物を自分が占有するという意思に基づき、事実上支配している状態をいいます。たとえば、他人の家に置いている私物や、店頭に並んでいる商品などは、他人が占有しているものとみなされます。
なお、「財物」というと、高級な財産物を思い浮かべるかもしれません。しかし、窃盗罪で規定される「財物」は、高級品である必要はありません。
古い判例では、チリ紙を「財物」と認めたケースもありますし、駄菓子屋の10円のお菓子も財物です。また、コンビニや駅のコンセントから無断で充電したことで、電気窃盗(被害金は数円程度)の罪の問われたケースもあります。どんなものでも、他人の物を盗ってはいけないということです。
● 他人の占有に属する財物を占有者の意思に反して、自己または第三者の占有下に移転すること
窃盗罪が規定されている235条の「窃取」とは、他人の占有に属する財物を占有者の意思に反して、自己または第三者の占有下に移す行為のことです。要するに、他人の支配下にある財物を、相手の承諾なしに自分や第三者のもとに移動させてしまう行為です。これは、詐欺罪と窃盗罪の区別で重要になります。
詐欺罪も窃盗罪も、相手から財物を奪う行為ですが、詐欺は、振り込め詐欺のように、だまされたとはいえ、本人が自らの意思で、自分の財産を犯人に渡してしまう点に特徴があります。それに対して、窃盗は、相手が知らぬ間に、勝手に財産を盗ってしまう犯罪であり、この行為を「窃取」と称して区別しています。
● 不法領得の意思を有していたこと
「不法領得の意思」という言葉も、わかりにくい法律用語のひとつです。判例によれば、窃盗罪における不法領得の意思とは、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用若しくは処分する意思」であるとされています。
要は、他人の物なのに、まるで自分の物であるかのように使ったり、処分しようとする意志のことです。盗んだ物を自分で利用する場合や、換金目的で奪った場合も不法領得の意思があるといえます。 -
(3)窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められており、起訴された場合、この範囲で刑罰が下されます。そして、事件内容、被害額、被害者に弁償したかどうか、被害者との示談成立の有無、前科前歴、加害者の生活状況、監督人の有無などなどさまざまな事情によって、実際の処分や刑の重さが裁判所によって判断されます。
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(4)無人販売所での持ち帰りと窃盗罪の成立
無人販売所で代金を払わずに商品を持ち帰ってしまった場合、窃盗罪が成立する過程を説明します。
まず、無人販売所に並べられている野菜などの商品は、売り手が自分の商品として管理しているものですから、「他人が占有する」ものに該当します。そして、野菜などの商品は、たとえ単価が安くても十分な財産的価値を持っていますから、「財物」にあたります。
さらに、売り手からすれば、料金を払わない客に野菜を渡すつもりはありませんから、勝手に野菜を持ち帰る行為は、売り手の意思に反して財物を自分の占有下に移す行為、つまり、「窃取」に該当します。そして、野菜を持ち帰って自分や家族で食べる目的があったならば、他人の財物をまるで自分の物のように扱うわけですから、「不法領得の意思」があるといえます。こうして、窃盗罪の要件を満たすことから、窃盗罪が成立することになります。
2、逮捕までの流れ、逮捕後の流れ
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(1)無人販売所での窃盗で逮捕される場合とは
無人販売所には誰もいないため、無断で持ち帰ったことがバレるケースとしては、監視カメラによって特定されるケースや目撃者がいた場合がほとんどです。最近は、スマートフォンですぐに撮影できるため、犯行の現場を目撃者が動画で納めているような場合もあります。特に、車のナンバーなどが記録として残っていれば、警察は簡単に犯人を特定することができます。
一般的な流れとしては、犯行が発生すると、被害者から警察に被害届が提出されます。被害届が受理されると、警察による捜査が始まります。被害者や目撃者が証拠を持っている場合は、その証拠を警察に提出します。地域の防犯カメラなどに犯行が映っている可能性がある場合は、警察がその画像を取り寄せて、犯行を確認することもあります。このようにして捜査が進み、警察が犯人を特定すると、犯人に対する事情聴取から逮捕へと進んでいきます。 -
(2)逮捕されてからの刑事事件の流れ
● 逮捕
逮捕とは、警察機関が被疑者を強制的に拘束し、留置施設に留め置くことをいいます。逮捕されると、警察で取り調べを受け、帰宅できないまま留置施設に入れられてしまいます。
逮捕による拘束時間は48時間以内です。この間に、被疑者を検察へ送致するか、釈放するかが決定されます。
● 検察送致
検察へ送致された場合、検察は逮捕後に、さらに身柄を拘束するための勾留を求めるかどうか判断します。引き続き身柄を拘束すべきだと判断されれば、検察官は裁判所に対して勾留の請求を行います。
● 勾留
裁判所が勾留を決定すれば、まずは10日間、そのまま留置場などに留め置かれます。さらに捜査が長引けば、最長で20日間、留置場生活が続くことになります。 -
(3)起訴か不起訴かの判断
勾留期間中に捜査が進むと、検察は捜査の結果を見て被疑者を起訴するかどうか判断します。なお、場合によっては、起訴不起訴の判断をいったん保留して、先に被疑者を解放することもあります。処分保留という状態です。この場合は、次に警察や検察から連絡があるまで、自分の処分がどうなるかわからない状態が続きます。
不起訴の決定が出れば、釈放されて、留置施設から出ることができます。起訴となれば、そのまま留置施設に留め置かれる可能性が高いです。しかも、起訴後の勾留には期間制限はありません。何もしないでいるとずっと閉じ込められたままになりますので、起訴後は速やかに保釈を請求するなどして身柄を解放してもらうように働きかける必要があります。 -
(4)刑事裁判手続き
起訴後、1か月から2か月程度で、刑事裁判の第1回期日が開かれます。刑事裁判では、被告人が本当に犯人なのか、犯人だとすれば、どの程度の処罰を下すべきか判断されます。検察官は被告人に不利な証拠を提出し、厳罰を求めます。
弁護士は被告人に有利な証拠を提出し、無罪の場合は無罪を主張し、仮に有罪であっても、できるだけ軽い刑罰になるように主張します。事件の内容によって刑事裁判の期日の回数は異なります。1回の裁判期日で結審することもありますし、何度も期日が開かれて何カ月も裁判が続くこともあります。いずれにしても、刑事裁判は判決によって終了します。
判決後2週間以内に検察官と被告人の双方が控訴しなければ、判決が確定し、事件が終わります。ここで、実刑判決が下されれば被告人は刑務所に入って刑期を務めることになります。執行猶予判決が出れば、直ちに釈放されて自宅に帰ることができます。
3、家族ができること
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(1)面会で本人と話す
逮捕や勾留により留置場に入れられている間、接見禁止が付いていなければ、家族は本人に面会に行くことができます。留置されてしまうと、本人から外部へ連絡を取ることはできません。逮捕されるとスマートフォンなども全て取り上げられてしまうからです。
家族による面会は本人にとって大きな心の支えです。時間が許す限り、面会に行って本人の話を聞くようにしましょう。ただし、家族などが面会できるのは平日の日中だけであるケースがほとんどです。また、捜査の都合が優先されるため、必ずしも希望どおりに面会できるとは限りません。そして、家族の接見には時間制限もあり、警察官の立ち合いも必須です。
なお、差し入れは可能ですが、差し入れできる物品には制限があります。たとえば、食べ物を直接持参して差し入れることは禁止されています。衣類や書籍についても種類や数に制限があるので、事前に必ず警察に確認してください。制限の範囲内で、本人の希望に応じて物品を差し入れると、本人も安心することができます。 -
(2)被害者に謝罪し弁償する
留置施設に留め置かれている間は、本人が被害者に直接謝罪することができません。しかし、被害者に謝罪して被害を弁償することは、重要なポイントです。
窃盗罪は財産犯ですから、財産的損害をきちんと賠償すれば、被害を回復させることができると考えられています。被害の回復は、加害者にとって有利な事情になりますから、処分を軽くするために、ぜひ進めたいものです。
4、弁護士ができること
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(1)事件の見通しを立てる
弁護士に相談すれば、現時点でどんな状況にあり、今後どんな処分に進むのか、おおまかな見通しを立てることができます。家族も本人も、逮捕された段階で一番不安なことは、これからいったいどんな流れになるのかわからないということでしょう。
刑事事件に経験豊富な弁護士であれば、窃盗事件でポイントとなる要素を把握していますので、事案の内容をお聞きし、今後の手続きがどう進んでいくか、またどうするべきかを説明することができます。それによって、今後の見通しが立ち、家族がどんな準備や手続きをすればいいのかわかりますので、不安が軽減されます。 -
(2)本人に接見する
警察に逮捕されて取り調べを受けている本人は、自分から外部に連絡ができません。家族が面会に行くとしても、時間制限や警察の立ち合いもあるため、十分な会話はできないでしょう。また、場合によっては面会が一切禁止される場合もあります(接見禁止といいます)。しかし、接見禁止処分中でも、弁護士だけは、本人といつでも接見する権利が保障されています。
土日でも夜間でも、弁護士であれば本人と接見で話すことができ、警察の立ち合いもありません。本人にとっても家族にとっても、弁護士がいつでも本人と会えるということは、大きな支えになります。 -
(3)被害者への謝罪と弁償を進める
被害者に謝って弁償することは窃盗事件の処分に関わる重要なポイントです。とはいえ、どんな風に謝罪し、弁償していいのか、家族ではわからないことも多いでしょう。謝罪の連絡ひとつでも、相手を怒らせてしまってはかえって被疑者の不利になる可能性もあります。
弁護士であれば、適切に被害者に謝罪し、弁償を進めることが可能です。また、謝罪と弁償を済ませたということを、検察や裁判所に立証するための書面も作成してくれます。この点は、弁護士に依頼する大きなメリットといえるでしょう -
(4)被害者と示談する
被害者への謝罪と弁償をしただけでなく、示談を成立させることができれば、さらに加害者にとって有利な事情となります。示談とは、被害者から加害者に対して今後は何も請求しないという意思表示を取り付けることです。示談が成立すれば、それを書面にして検察官や裁判所に提出します。示談も一種の交渉ですから、交渉に慣れている弁護士に依頼することで、示談が進みやすくなり、きちんとした証拠になる示談書面を作成してもらえます。
5、まとめ
無人販売所で会計をせず商品を持ち帰る行為は犯罪です。行為が発覚すれば窃盗犯として刑事事件化する可能性があります。被疑者として逮捕されるケースもあり、逮捕されなくても有罪になれば前科がつくことになります。
あなたやあなたのご家族が無人販売所で窃盗してしまい、どうすべきかお悩みであれば、まずは弁護士にご相談してください。刑事事件化は時間との勝負です。逮捕されてからおおむね20日程度で起訴か不起訴かが決定されますから、それまでに被害者への謝罪や弁償、そして示談などできる限りのことをしなければならないのです。
だからこそ、刑事手続きに経験豊富な弁護士に少しでも早く依頼することが重要です。ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスでは、窃盗事件はもちろん多数の刑事事件について弁護活動の経験を持つ専門チームと担当弁護士がご相談をお受けしています。ご家族が逮捕された方は、少しでも早くご相談ください。
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