【事例付】会社や職場で窃盗が発覚したら? 問われる法的責任や処分
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令和3年、浜松市内の会社から約180万円相当の産業用機器などを盗んだ容疑で、同社の従業員が逮捕されました。転売目的で盗みを繰り返していたとみられています。
たとえ自分が勤務している会社が相手であっても、職場での窃盗は犯罪です。刑法第235条の「窃盗罪」などに問われることになり、厳しい刑罰が科せられるほか、民事的な責任や会社からの制裁的な処分を受ける事態は避けられません。
本コラムでは「職場における窃盗」で問われる罪や科せられる刑罰、発覚するきっかけや経緯、最善の解決法などを解説します。
1、職場でのお金や物を盗んだ場合に問われる罪
「勝手に自分のものにする」という行為を広く「盗む」と解釈することが多いようです。
しかし、職場でお金を盗む、会社の物を盗むといった行為は、法律の定めに照らして考えると状況次第で適用される犯罪が異なります。
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(1)窃盗罪
他人の財物を窃取する行為は、刑法第235条の「窃盗罪」に問われます。
「盗む」という行為に対して適用される典型となる犯罪ですが、とくに職場・会社におけるケースでは「占有」の有無が問題となるでしょう。
占有とは、財物を実際に管理・支配している状態を指す法律用語です。実際に持っている状態だけでなく、管理あるいは支配している状態も含まれるので、たとえば同僚の机やロッカーからお金を盗む、会社の倉庫から商品を盗むといった行為は同僚や会社の占有を侵していることになります。
窃盗罪における「他人の財物」とは、「他人が占有する他人の所有物」のことを意味します。窃盗罪が成立するためには、自分が占有しているのではなく、他人が占有している他人の所有物を窃取することが必要になります。 -
(2)業務上横領罪
職場・会社における「盗む」という行為に適用されやすいもうひとつの犯罪が、刑法第253条の「業務上横領罪」です。業務のうえで自分が占有している他人の金品を横領した場合に成立します。
一般的にいう「盗む」という行為が窃盗罪になるのか、それとも業務上横領罪になるのかの線引きで注目するのは、金品を業務に関係して自分が占有していたかどうかという点です。
たとえば、コンビニエンスストアのレジ係がレジスターの中から売上金を盗んだ場合は、機械的に現金の受け渡しを任されているだけで、レジスターの中の売上金の管理・支配を許されているわけではないので、他人が占有している他人の所有物を窃取したことになり、窃盗罪に問われます。
一方で、経営者から店舗の運営や金銭管理を任されている責任者が売上金を盗んだケースでは、機械的な受け渡しではなく管理・支配を委託されている状態になるので、自分が占有していたことになり、業務上横領罪が成立します。
2、実例から学ぶ、職場での窃盗が発覚するきっかけや経緯
ここでは、職場・会社での窃盗の事例をみながら、どのようなきっかけ・経緯で発覚したのかを紹介していきます。
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(1)内部調査から発覚する
管理していたはずの現金がなくなっている、在庫が不自然に不足しているといった状況が発覚すると、多くの会社は内部調査を実施します。
最後に金品に触れた、管理を任されていたなど、何らかの事情を知っていると思われる者は内部調査において聞き取りを受けることになるでしょう。
令和4年1月、金融機関の支店に設置されているATMから現金を盗んだ容疑で、警備会社の従業員が逮捕されました。ATMの点検やメンテナンスを担当していましたが、ひとりで業務にあたっていた際に複数のATMから合計およそ1億円を盗んでいたそうです。
この事例では、ATMの不具合が発生して会社側が検査した際に現金の不足が発覚し、内部調査が進められて容疑者が特定され、聞き取り調査において容疑を認めました。 -
(2)防犯カメラの映像から発覚、特定される
社内に防犯カメラを設置している場合は、記録されている映像が証拠になって窃盗が発覚することもあります。
令和3年11月、勤務先である銀行の金庫から現金を盗んだ男が逮捕されました。同年4月、社員のひとりが一時失踪したことを不審に感じて支店内の現金を精査したところ、金庫内に保管していた現金2350万円がなくなっていたとのことです。
この事例では、銀行からの届け出で警察が捜査を進めたところ、防犯カメラに記録されていた映像から容疑者として特定されています。
なお、このケースでは、金庫に出入りするための鍵の管理は許されていたものの、現金の管理を任されていたわけではないので、業務上横領罪ではなく窃盗罪が適用されました。 -
(3)通話履歴などから共犯者が発覚する
令和3年9月、勤務先のパチンコ店から現金800万円と特殊景品960枚・交換価格480万円分を盗んだ男が逮捕されました。
発覚した当初は単独犯かと思われていましたが、逮捕された男の通話履歴を精査したところ、同店の幹部従業員の関与も明らかになり、共犯者として逮捕されています。 -
(4)そのほか、発覚のきっかけになる状況
内部調査や防犯カメラの映像などのほかにも、次のような状況があると窃盗が発覚するおそれがあります。
- 窃盗の状況をほかの社員が目撃しており、会社側に報告した
- 被害に遭った同僚が会社に申告して従業員全員への聞き取り調査がおこなわれた
- 盗んだ物を転売しており、リサイクルショップへの売却履歴やフリマアプリの出品履歴などから特定された
- 通常、触れることのない金庫などに不自然な指紋が残されていた
- 良心の呵責(かしゃく)に耐えられなくなった社員がみずから窃盗を自白した
いずれにしても、発覚すれば会社からの厳しい追及を受けるだけでなく、警察への届け出や社内での処分といった事態は避けられないでしょう。
3、職場での窃盗で負う法的な責任とは?
職場で窃盗事件を起こしてしまった場合は、さまざまな責任が生じます。
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(1)刑事責任│刑法で定められた範囲の刑罰
窃盗は刑法に定められた犯罪なので、会社や同僚などが警察に被害届を提出し、捜査が進められると、任意で事情聴取を受けたり、逮捕されたりする可能性があります。捜査の結果、書類送検される場合もあります。
さらに検察官が起訴すると刑事裁判に発展し、有罪判決が下されると刑罰を受けます。これが「刑事責任」です。
窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金なので、刑事裁判では裁判官がこの範囲で適切と判断する量刑が言い渡されます。たとえ懲役に執行猶予がついて刑務所には収監されずに済んだり、罰金で済まされたりしても、有罪判決を受けると前科がついてしまうという点は心得ておかなければなりません。 -
(2)民事責任│被害額や会社の損失額の賠償
会社や同僚から金品を盗んだ場合は、その損害を賠償する民事責任が生じます。
現金を盗んだ場合はその金額を、物を盗んだ場合はその時価相当額を返済・弁済しなければなりません。
正しく理解しておく必要があるのが、民事責任と刑事責任はまったく別のものだという点です。
刑罰を受けて罪を償っても盗んだ金品を弁済する責任が消えるわけではないし、盗んだ金品を弁済したからといって罪が消えるわけでもありません。 -
(3)懲戒処分│就業規則に従った制裁
職場・会社で窃盗事件では、会社からの懲戒処分は避けられないでしょう。社内の風紀を乱し、信用も失墜するので、就業規則に従って懲戒解雇・懲戒免職を受けて職を失う危険があります。
また、多くの会社では、懲戒解雇された場合の退職金を不支給・減額とする規則が設けられているので、生活設計にも大きな打撃を受けるのは必至です。
4、職場での窃盗容疑でトラブルになったら弁護士に相談を
職場・会社での窃盗容疑でトラブルに発展した場合は、ただちに弁護士に相談してアドバイスと必要なサポートを受けましょう。事実無根の疑いをかけられている場合はもちろん、窃盗をはたらいたのが事実であっても弁護士のサポートは必須です。
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(1)会社や同僚との示談による解決が期待できる
弁護士に相談して詳しい状況を説明すれば、自身の行為がどの犯罪にあたるのか、どのような刑罰が予定されているのかを正確に把握できます。会社や同僚に与えた被害額や前科・前歴の有無から、想定される量刑の相場を知ることもできるでしょう。
また、逮捕や厳しい刑罰を回避するための弁護活動も依頼できます。とくに窃盗や業務上横領といった「財産犯」に分類される犯罪では、被害者に対して謝罪・弁済を尽くすことで刑事責任を追及しないように求める「示談交渉」による解決が効果的です。
被害者との示談が成立し、被害届や刑事告訴が取り下げられると、その時点で警察や検察官の捜査が終結する可能性が高まります。
検察官が起訴に踏み切ったとしても、すでに被害者に対する民事責任を尽くしているという事情は有利にはたらくため、処分の軽減も期待できるでしょう。 -
(2)無罪の主張に向けたサポートが期待できる
あらぬ疑いをかけられており無罪を主張する場合も、弁護士の協力は欠かせません。
無罪を主張するには、窃盗を犯していないことを証明する客観的な証拠の収集、捜査機関の立証への対抗、違法捜査の指摘などが必要です。
法律や刑事手続きの詳しい知識に加えて、刑事事件の経験値も求められる難しい対応になるので、個人の力だけで無罪を得るのはほぼ不可能なので、早急に弁護士に相談してサポートを求めましょう。 -
(3)解雇の撤回や退職金の支払いなどに向けたサポートも可能
会社で窃盗トラブルを起こすと、懲戒解雇や退職金の不支給・減額といった処分を受けるおそれがあります。
不当な処分を受けた場合は、解雇の撤回や退職金などの支払いを求めて会社側と交渉を重ねたり、訴訟で争ったりすることになるでしょう。会社との交渉や訴訟には多大な労力が必要となるので、弁護士に対応を任せたほうが賢明です。
5、まとめ
会社や同僚の金品を盗むと、刑法の「窃盗罪」などに問われます。厳しい刑罰を受けるだけでなく、解決が遅れると懲戒解雇などの不利益もまねくため、早急にアクションを起こして積極的に解決を図らなければなりません。
早い段階で示談が成立すれば、警察への届け出や懲戒解雇などを回避できる可能性が高まります。
個人の力だけでは解決が難しいので、ただちに弁護士に相談して必要なサポートを求めましょう。
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