離婚の財産分与│持ち家にローンが残っていたら?
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静岡県人口動態統計のデータによると、令和元年の浜松市内における離婚件数は1192件でした。
婚姻期間によっては、持ち家に住宅ローンが残った状態で離婚するケースも少なくありません。その場合、住宅ローンの財産分与が大きな問題となります。売却するにしても、どちらかが住み続けるにしても、注意すべきポイントを踏まえつつ、双方にとって最良の選択ができるように努めたいところです。
今回は、持ち家と住宅ローンの財産分与に関する法律問題について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、住宅ローンの残っている持ち家は財産分与の対象?
婚姻中に組んだ住宅ローンの債務は財産分与の対象となります。その理由である「共有財産」について、まずは知っておきましょう。
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(1)財産分与の対象となる財産│共有財産・特有財産
離婚の際に財産分与となる財産は、原則として夫婦が婚姻中に築いた財産が対象です。この夫婦で築いた財産を「共有財産」といいます。
財産分与における「共有」とは、共同名義の財産のみを意味するのではありません。婚姻期間中に夫婦のいずれかが取得した財産は、夫婦の共有財産であると推定されます(民法第762条第2項)。
これに対して、以下のいずれかに該当する財産は、「特有財産」として財産分与の対象になりません。
- 夫婦の一方が婚姻前から有する財産
- 婚姻中自己の名で得た財産(相続、遺贈、生前贈与によって取得した財産など)
なお借金や住宅ローンなどの債務についても、財産と同じ上記の基準に従い、財産分与の対象となります。
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(2)婚姻中に取得した住宅はローンがあっても財産分与の対象になる
上記の財産分与の対象財産・債務に関する判断基準を踏まえると、婚姻中に購入・取得した持ち家と、その持ち家を購入するために借り入れた住宅ローンは、財産分与の対象となります。
そのため、夫婦のどちらか一方がローンを組む「単独名義」、夫婦ふたりでローンを組む「共有名義」どちらであっても、財産分与の対象です。
反対に、婚姻前に購入した持ち家と、その購入時に借り入れた住宅ローンであれば、財産分与の対象外です。
2、離婚後も持ち家に住み続ける場合の注意点
住宅ローンが残る持ち家を財産分与する主なパターンとして
● 一方が住宅ローンを支払って住み続ける
● 住宅を売って売却益を双方で分ける(売却益がでないオーバーローンについては後述)
があります。
もし、一方が住み続ける場合、債務者を変更するか、債務者を変更せずに住み続けるか、どちらかになります。それぞれのリスクと注意点について解説します。
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(1)住宅ローン契約が当然に変更されることはない
住宅の名義人の変更は、具体的に以下のケースが考えられます。
● 夫の単独名義で住宅ローンを組んでいる
⇒妻と子どもが住み続けるため妻の名義に変えたい
● 夫婦でペアローンを組んでいる等で共有名義になっている
⇒妻が住み続けるため妻の名義に変えたい
しかし、金融機関は、債務者となる人の財産状況や収入などを調査し、事前に審査を行ったうえで住宅ローンを貸し付けています。
そのため、債務者を変えると、金融機関は不測の不利益・リスクを負うことになってしまいます。
住宅ローンの債務者が離婚をしたことは、あくまでも債務者側の個人的な事情であり、金融機関には無関係な事情です。そのため、債務者が離婚をしたとしても、住宅ローン契約が当然に変更されることはありません。 -
(2)債務者変更には金融機関の同意が必要
住宅ローン契約上の債務者を変更するためには、債権者である金融機関の同意が必要になります。
金融機関は、債務者変更の申出を受けた際、新たな債務者について再び融資審査を行い、住宅ローン債権を回収できる見込みが十分あるかどうかを分析・検討したうえで、債務者変更を認めるかどうかを判断します。
新たに住宅ローンの債務者になりたくても、元の債務者より収入が低いと金融機関から断られてしまうケースもあるので注意が必要です。 -
(3)住む人と所有者が異なる状態は避けた方が無難
次に、名義人を変えずにいる場合のリスクについてみていきましょう。
家から出ていく側が名義人(家の所有者)の場合、住み続ける側は家を「無償で借りている」状態になります。このように住む人と所有者が異なる状態は、トラブルの原因になりやすいので、可能であれば避けた方が無難です。
家を借りるに当たって、賃料を支払わない場合は「使用貸借」(民法第593条)として取り扱われます。使用貸借の場合、所有者によって建物が第三者に譲渡された際に、原則として第三者に対して使用借権の存在を対抗することができません。
つまり、持ち家に住み続ける側にとっては、元配偶者が持ち家を他人に売却した場合、出ていかなければならないリスクを負うことになってしまうのです。
住む側が出ていく側に適正な賃料を支払う場合は、「賃貸借」として取り扱われるため、上記のリスクは解消されます。建物の引渡しを受けていれば、所有者が建物を第三者に譲渡した場合でも、賃借権の存在を主張することができるからです。
ただし、賃料支払いの負担が発生する上、賃貸借契約を巡って元夫婦間でトラブルに発展する可能性は否めません。もし、名義人を変えずに、名義人ではない者が家に住み続ける場合は、トラブルを避けるため、弁護士に相談して公正証書に適切な取り決めを残すよう手配しましょう。
3、離婚時に持ち家を売却する場合の注意点
住宅ローンの債務名義の変更が難しい、住宅ローンを返済し続けるのが厳しい等の理由で、持ち家を売って財産分与したいと考える方もいらっしゃるでしょう。
持ち家を売却する場合には、以下の2点に注意が必要です。
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(1)売却に時間がかかる可能性がある
持ち家を売却しようと思っても、すぐに買い手が見つかるとは限りません。不動産売買において、売り出し開始から買い手が見つかるまでは、3~6か月程度かかるのが一般です。
売却に時間がかかるようであれば、売れるまでの間、持ち家をどうするか話し合っておく必要があります。もし持ち家を空き家にして、別に賃貸住宅を借りる場合、住宅ローンと家賃の支払いが二重に発生する点に注意が必要です。 -
(2)オーバーローンの場合は債務が残る|資金の準備が必要
持ち家の売却価格よりも、住宅ローンの残債務の方が大きい状態をオーバーローンと言います。(売って売却益がでるのはアンダーローンと呼ばれます)
たとえば、
● 住宅ローン……2000万円
● 家の売却金額……1500万円
といったケースでは、500万円の残債が残るオーバーローンとなります。
こうした場合、売却益を全額返済に充てても、住宅ローンを完済することができません。
住宅ローンを完済できないと、物件に設定された抵当権を解除できなくなります。抵当権とは、銀行などの金融機関が、返済が滞った場合に住宅を競売などにかけて債権回収をする権利です。
抵当権がついたままでは、基本的に住宅を売ることはできません。したがって、不足する分の金額については、別のところから資金を捻出して完済しなければなりません。
オーバーローンの状態で持ち家を売ることになった場合は、夫婦のどちらがどれだけの追加支出を行うかについて、離婚時に明確に取り決めておきましょう。
4、財産分与で悩んだら、まずは弁護士に相談を
持ち家と住宅ローンの財産分与を含めて、離婚の際には話し合わなければならない事項がたくさんあります。関係性が悪化した夫婦同士の話し合いで、トラブルなく離婚をまとめることは難しいことです。
弁護士にご相談いただければ、法的な観点から論点を整理したうえで、冷静な話し合いを行い、円満・迅速に離婚を成立させられるよう尽力いたします。配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
婚姻中に取得した持ち家と、その購入のための住宅ローン債務は、夫婦いずれかの単独名義であっても財産分与の対象となります。
売却して代金を分けるか、夫婦のどちらか一方が住み続けるか、どちらの選択肢も考えられますが、それぞれの注意点を踏まえて財産分与の方法を話し合うことが大切です。
ベリーベスト法律事務所は、離婚に関する法律相談を随時受け付けております。持ち家と住宅ローンの財産分与について配偶者と揉めそうな方、配偶者から不当な離婚条件を提示されてお困りの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています