闇残業とは|問題点と対策を弁護士が解説
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働き方改革を受けて、2020年4月より中小企業にも時間外労働の上限規制が設けられました。そのため、長時間労働の解消に向け、体制を整えている企業も少なくないでしょう。
一方、経営者側の認識とは異なり、現場では「闇残業」が行われている可能性もあります。闇残業とは、いわゆる「サービス残業」のことを指し、労働安全衛生法や労働基準法などの法令上の問題があるだけではなく、生産性の低下も招くおそれがあるため、放置せず減らす取り組みを行うことが大切です。
今回は、闇残業の問題点とその対策について、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
1、闇(ヤミ)残業とは?
闇残業とはどのようなものを指すのでしょうか。以下では、闇残業の定義と闇残業に該当するケースについて説明します。
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(1)闇残業とは
闇残業とは、時間外労働をしているにもかかわらず、その時間の全部または一部を申告せず、残業代が支払われない状態のことをいいます。闇残業は「サービス残業」とも呼ばれます。
労働基準法では、1日8時間、1週間で40時間を法定労働時間としています(労働基準法32条1項)。法定労働時間を超えて労働者を働かせるためには、会社と労働者の代表者との間で、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法36条)。
ただし、36協定を締結しても、法定時間外労働には割増賃金を支払わなければならず、法定の上限を超えて働かせた場合には、罰則が適用されることになります。
そのため、一部の企業では、割増賃金の支払い負担を軽減する目的などで、闇残業が行われています。 -
(2)闇残業に該当するケース
闇残業に該当するケースとしては、以下のケースが挙げられます。
① タイムカードを打刻後の残業
労働者の労働時間を把握・管理するためにタイムカードを導入している企業も多いでしょう。労働者は、終業時間にタイムカードに打刻して、帰宅することになりますが、闇残業をしている会社では、労働者は、タイムカードの打刻後も会社に残って仕事をしています。
タイムカードの打刻後の残業は、闇残業の典型的なケースといえるでしょう。
② 仕事の持ち帰りによる闇残業
闇残業は、会社内での残業だけに限られたものではありません。勤務時間中に終わらなかった仕事を自宅に持ち帰って行う「持ち帰り残業」も闇残業にあたる可能性があります。
労働者の自主的な持ち帰り残業であれば問題ありませんが、会社から明示または黙示で持ち帰り残業の指示が出ていた場合には、労働時間にあたり賃金の支払い義務が生じます。後者について、必要な賃金の支払いを怠った場合には、闇残業にあたるといえます。
③ 早出による闇残業
会社によっては、始業時間よりも前に出社し、仕事を開始することを求められることがあります。残業というと終業後の居残り業務をイメージする方も多いですが、始業時間前であっても残業は起こり得ます。
始業時間前に出社して、仕事をしているにもかかわらず、その時間に対して賃金が支払われていない場合、闇残業にあたります。
④ 研修名目での闇残業
終業時間後に行われる研修であっても、会社から参加が義務付けられている場合には、残業にあたります。そのため、研修だからといって賃金の支払いをしないことは、闇残業にあたります。
2、闇残業の問題点
闇残業には、以下のような問題点があります。
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(1)法令上の問題点
闇残業は、会社側が労働者の労働時間を適切に把握・管理していないという点と本来支払う必要のある賃金が支払われていないという点の2点で法令上の問題点があります。
① 労働安全衛生法違反
働き方改革に伴い労働安全衛生法も改正され、事業主には、労働者の労働時間を把握することが義務付けられました。労働安全衛生法では、労働者の労働時間を客観的に把握して、長時間労働などの問題が発覚した場合には、医師との面談を行わせるなどして労働者の健康管理を行うことを目的といています。
しかし、闇残業が行われていると、会社側が労働者の労働時間を把握することができず、長時間労働などにより労働者の健康管理に支障が生じるおそれがあります。そのため、闇残業を行うことは、労働安全衛生法違反となります。
② 労働基準法違反
労働基準法では、労働時間の原則と割増賃金の支払い義務が定められています。
36協定を締結・届出をすることで法定時間外労働を命じることができますが、法定時間外労働には、月45時間、年360時間という上限があります(労働基準法36条3項、4項)。
通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴う臨時的な場合でも、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)が上限とされています(労働基準法36条5項、6項)。
闇残業によって、このような上限を超えて残業をしていた場合には、労働基準法違反となります。
また、使用者には、割増賃金の支払い義務がありますので、闇残業をした労働者に対して、適切な割増賃金の支払いをしないと労働基準法違反となります。 -
(2)優秀な人材を失うという問題点
闇残業をしている労働者は、プライベートの時間を削って仕事をしているにもかかわらず、残業代などの適正な対価を受け取っていないことになります。このような状態が続けば、優秀な人材が会社を離れていってしまう可能性は否めないでしょう。
人材を失えば、経営面にも影響が生じますし、新たな人材を採用するためのコストもかかってしまうなど、企業にとってはマイナスな影響ばかり生じてしまいます。 -
(3)生産性の低下という問題点
闇残業が常態化していると、企業では、労働者の労働時間を把握できず、職場の人員配置や業務効率が適正であるかどうかを判断できなくなってしまいます。
本来であれば、時間外労働を行わないように、業務負担が多い部署には多めの人材を充てるなどの対応が必要になります。しかし、闇残業で業務が回っていると業務負担の軽重を把握することができず、職場の人員配置などの経営判断を誤ってしまうリスクがあります。
3、闇残業を防ぐには?
闇残業には、上記のようにさまざまな問題点がありますので、企業としては闇残業を防ぐための対策が必要になります。
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(1)労働時間を正確に把握する
闇残業を防ぐためには、まずは、労働者がどのくらいの残業を行っているのかは正確に把握することが必要となります。現状の労働時間管理の方法に問題がないかどうかを確認し、適切な労働時間管理ができる方法へと改善していくようにしましょう。
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(2)労働時間制度の見直し
現在では、さまざまな働き方がありますので、既存の労働時間制度では、労働者の残業時間を適切に把握・管理できないこともあります。
そのような場合には、以下のような形で労働時間制度の見直しをしてみるのもひとつの方法です。- 変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制の導入
- 残業を許可制にする
- 固定残業代制にする
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(3)労働環境の改善
闇残業をする原因のひとつとして、残業をしなければ業務が回らない労働環境に問題点があるかもしれません。闇残業は、特定の労働者や特定の部署に業務が偏ることによって生じるケースもありますので、まずは、会社全体の業務負担を見直して、業務負担の平準化を図ることが大切です。
闇残業が常態化しているとタイムカードなどの記録上では、業務負担の軽重を把握することができませんので、労働者一人ひとりにヒアリングするなどして、労働環境の把握に努めるようにしましょう。 -
(4)管理者研修の実施
現場で闇残業が行われるのは、各部署の管理職が労働時間管理に対する理解が不十分であることも考えられます。そのため、正しい労働時間管理に関する管理者研修を実施するなどして、管理職の意識改革を行うことも必要です。
4、人事労務問題は弁護士にご相談ください
人事労務問題でお困りの企業は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)闇残業の防止に向けた適切な方法を提案してもらえる
闇残業には、法令上の問題点や生産性の低下の問題などさまざまな問題が生じますので、企業としては、闇残業の改善に向けて取り組むことが大切です。闇残業の防止に有効となる対策は、企業の規模や状況に応じて異なってきますので、最適な方法を導入するためにも専門家のアドバイスが不可欠といえます。
弁護士であれば、企業法務に関する豊富な知識と経験を有していますので、その企業に応じた最適な方法を提案することが可能です。 -
(2)労働者対応も任せることができる
闇残業をしていると、労働者から未払い残業代の支払いを求められることがあります。企業には、残業時間に応じた割増賃金の支払い義務がありますので、労働者から未払い残業代請求を受けた場合には、適切な対応することが必要です。
もっとも、未払い残業代の請求への対応にあたっては、残業代の計算、労働者との裁判外の交渉、労働審判・訴訟といった法的手続きへの対応などが必要になってきます。
弁護士に依頼をすれば、労働者との裁判外の交渉から訴訟まですべてを任せることができるため、企業の負担を軽減しつつ適切な解決が期待できます。
5、まとめ
闇残業は、法令違反や生産性の低下などを招くおそれがあり、そのまま放置していると企業にとっては大きなデメリットとなります。闇残業が行われている場合には、直ちにその状況を解消するとともに、今後闇残業が生じないように改革していくことが重要です。
このような人事労務の問題については、実績のある弁護士のサポートが不可欠となりますので、まずは、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスまでお気軽にご相談ください。
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