経歴詐称が発覚した従業員を解雇したい! 処分時の注意点と対応方法

2024年08月19日
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経歴詐称が発覚した従業員を解雇したい! 処分時の注意点と対応方法

静岡労働局のサイトでは、労働局長による助言・指導の例のひとつとして「経歴詐称を理由とする懲戒解雇の是非をめぐる助言・指導の事例」を掲載しています。

会社にとって、従業員の経歴詐称は重大な裏切りと感じられる行為です。会社としては、従業員の解雇を含めた厳しい対応を検討したいと考えるかもしれません。ただし、前述の事例では経歴詐称を理由に懲戒解雇をした会社側が補償金を支払う内容で和解に至っています。つまり、経歴詐称が軽微である場合には、解雇が認められないことがあるのです。

本コラムでは、経歴詐称を理由とする解雇の可否などについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。弁護士のアドバイスを受けて、解雇すべきかどうかを適切に判断しましょう。

1、経歴詐称とは|見抜く方法はあるのか?

「経歴詐称」とは、学歴や職歴などを偽ることです。志望する会社に入社したいがために、採用面接などで経歴詐称が行われることがあります。

  1. (1)経歴詐称の具体例

    よくある経歴詐称としては、以下の例が挙げられます。

    • 本当は留学したことがないのに、海外の学位を取得したと偽った
    • エンジニアとして実務経験が要求されている求人に対して、未経験者が職歴を偽って応募した
    • 採用面接での評価を上げるため、管理職の経験がないにもかかわらず、その経験があると偽った
    • 応募に必要な資格を保有していないのに、保有していると偽って応募した
    • 犯罪歴を質問された際、過去に有罪判決を受けたことがあるにもかかわらず、犯罪歴がないと申告した
  2. (2)経歴詐称を見抜く方法

    経歴詐称を見抜くためには、たとえば以下の手段を講じることが考えられます。

    <職歴詐称を見抜く方法>
    • 前職の退職証明書の提出を求める
    • 雇用保険被保険者証を確認する(前職の情報が記載されている)
    • 労働者が自称している職歴に関して、専門技術的な質問をする

    <学歴詐称を見抜く方法>
    • 卒業証明書や修了証明書などの提出を求める

    <資格詐称を見抜く方法>
    • 合格証明書などの提出を求める

    <犯罪歴詐称を見抜く方法>
    • インターネットで氏名などを検索する
    など

2、経歴詐称を理由に従業員を解雇できるか?

経歴詐称をした従業員は、会社に対する裏切り行為をしたものとして、解雇を検討したいと考えるケースもあるでしょう。ただし、経歴詐称が軽微な場合には、解雇が認められないことがあるので注意が必要です。

  1. (1)経歴詐称は懲戒事由・解雇事由に該当|解雇できる可能性あり

    経歴詐称は多くの会社において、就業規則上の懲戒事由、または労働契約・就業規則上の解雇事由に当たります。

    懲戒事由に該当する場合は懲戒解雇、解雇事由に該当する場合は普通解雇ができる可能性があります。経歴詐称が悪質である場合には、従業員の解雇を検討しましょう。

  2. (2)経歴詐称が軽微な場合は、解雇権の濫用に要注意

    ただし、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない懲戒や解雇は、懲戒権や解雇権の濫用として無効となります(労働契約法第15条、16条)。

    経歴詐称が重大であれば、会社における業務や同僚などからの信頼に及ぼす悪影響が著しいため、解雇もやむを得ないと判断されるケースが多いです。これに対して、詐称した内容が軽微である場合には、解雇は重すぎる処分として、懲戒権や解雇権の濫用に当たり無効と判断される可能性があります。

    軽微な経歴詐称を理由に不当解雇をすると、労働者とのあいだで深刻なトラブルに発展するリスクがあるので要注意です。

  3. (3)経歴詐称を理由とする解雇が有効と判断された裁判例

    経歴詐称を理由とする解雇が有効と判断された裁判例を紹介します。

    ① 大阪高裁昭和37年5月14日判決
    小学校卒業を中学校卒業と偽って雇用された労働者が、会社によって懲戒解雇された事案です。

    大阪高裁は、経歴詐称が懲戒処分の事由となるには、詐称行為が雇用契約締結時になされただけでなく、労働者の容態によってその後も使用者の欺罔状態(騙された状態)が継続し、具体的に企業秩序違反の結果を生じさせたことが必要としました。
    その上で、最終学歴は一般的に重要な経歴に当たるとして、雇い入れ後も詐称を続けた労働者に対する懲戒解雇は有効と判示しました。

    ② 東京地裁昭和55年2月15日判決
    最終学歴が高校卒業以下であることを条件とする求人に、短大を卒業しているにもかかわらず応募して採用された労働者が懲戒解雇された事案です。

    東京地裁は、作業の特質および従業員の定着性などの観点から、使用者は採用条件を高卒以下の学歴の者に限定し、その方針を厳守していたことを認定しました。
    その上で、短大卒の学歴を隠して採用されたことが、会社の従業員構成や人事管理体制を混乱させたことを指摘し、懲戒解雇を有効と判示しました。

    ③ 東京地裁平成16年12月17日判決
    JAVA言語のプログラマーとしての能力を持たないにもかかわらず、プログラミングに関する職歴を偽って採用された労働者が懲戒解雇された事案です。東京地裁は、懲戒解雇を有効としました。

    ④ 大阪地裁昭和62年2月13日判決
    前職での組合活動歴を隠すため、タクシー乗務員の職歴を隠して未経験者として採用された労働者が懲戒解雇された事案です。

    大阪地裁は、タクシー乗務員の経験者であることがわかっていれば、前勤務先に問い合わせて成績などを調査し、採用選考の判断材料にすることができた点、採用後の指導・監督についても異なっていた可能性がある点などを指摘しました。
    その上で、職歴を隠したことは重要な経歴詐称に当たるとして、懲戒解雇を有効としました。

3、経歴詐称による解雇が難しい場合に考えられる懲戒処分

経歴詐称の内容が、比較的軽微であり、懲戒解雇事由に当たらないと思われる場合には、懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いと考えられます。その場合に代替手段として検討できる懲戒処分について解説します。

  1. (1)戒告・譴責(けん責)

    「戒告」または「譴責」は、労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分です。労働者に書面を交付する形で行われるのが一般的で、「譴責」では労働者に始末書の提出を求めるケースもあります。

    経歴詐称が軽微にとどまる場合は、戒告・譴責から行うのがよいでしょう。経歴詐称以外にも何らかの非違行為が見られる場合には、段階的に懲戒処分の重さを引き上げることが考えられます。

  2. (2)減給

    「減給」は、労働者の賃金を減額する懲戒処分です。減給以上の懲戒処分は、労働者に具体的な経済的不利益を与えるものになります。

    減給の懲戒処分は、以下の2つの上限額をいずれも超えない範囲でのみ認められます

    • ① 1回の額が平均賃金の1日分の半額以下
    • ② 総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1以下
  3. (3)出勤停止

    「出勤停止」は、労働者に対して出勤を禁止し、通常、その期間中の賃金を支給せず、その期間を勤続年数にも参入しない懲戒処分です。

    減給とは異なり、出勤停止には日数の上限が設けられていません。ただし、あまりにも長すぎる出勤停止は、懲戒権の濫用として無効となるおそれがあります。
    標準的には数日から2週間程度であり、長くても1か月以内にとどめるのが無難です。

  4. (4)降格

    「降格」は、労働者の役職などを引き下げて、役職手当などを不支給とする懲戒処分です。

    特に管理職クラスの労働者について経歴詐称が判明した場合は、人格や能力に疑問符が付くほか、他の労働者からの信頼が失われ、管理職としての職務を全うできなくなる可能性が高いものです。

    この場合には、降格の懲戒処分を検討するとよいでしょう。

4、経歴詐称への対応については顧問弁護士に相談を

従業員の経歴詐称が判明した場合、その従業員に対してどのような処分を行うべきか検討する必要があります。その際には、顧問弁護士に相談するのが安心です。

顧問弁護士と契約すれば、経歴詐称の内容や労働者の振る舞いなどを踏まえた上で、会社としてどのような処分を行うことができるかについてアドバイスを受けられます。また、経歴詐称以外の労働問題や、契約書のチェック・社内規程の整備・従業員研修など、幅広い事柄を顧問弁護士に相談することが可能です。

従業員の経歴詐称への対応にお困りの企業や、労務コンプライアンスを強化したい企業は、顧問弁護士との契約をご検討ください。他方で、顧問弁護士がいないケースにおいて、すでに解雇しようとしている従業員とのあいだでトラブルになっている場合は、早急に弁護士に相談したほうがよいでしょう

5、まとめ

従業員の経歴詐称は、重大なものであれば解雇事由に該当する可能性が高いです。

その一方で、軽微な経歴詐称を理由に従業員を解雇すると、不当解雇の責任を問われるおそれがあります。解雇が難しい場合には、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格などの懲戒処分を検討しましょう。

経歴詐称をした従業員への対応については、顧問弁護士のアドバイスを受けるのが安心です。従業員とのあいだでトラブルが生じた際に、会社が不利な状況に陥らないような対応について検討することが可能です。また、経歴詐称以外の労働問題や、会社として直面するその他の法律問題についても、顧問弁護士と契約すればいつでも相談することができます。

ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。クライアント企業のニーズに応じて、柔軟にご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意がございます。従業員の経歴詐称やその他の法律問題・労働問題への対応、コンプライアンスの強化などに関するご相談は、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスでご相談ください。

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