交通事故で意識不明の重体に。家族がするべきことを弁護士が解説
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静岡県警が毎月発表している交通事故統計によると、令和2年4月末時点で、県内交通事故発生件数は6853件、そして、交通事故による死者が41人、負傷者8731人となっています。昨年と比較すると件数・負傷者数は減少傾向にあるものの、死亡者は前年より多く、依然として多くの方が交通事故により死亡・負傷していることがわかります。
万が一、交通事故に家族が巻き込まれた場合の不安や負担を少しでも軽減できるよう、ご家族ができる対処方法について、弁護士が詳しく解説します。
目次
1、家族が交通事故で意識不明となったとき、家族ができること
家族が事故で病院に運ばれた、意識不明らしいと連絡を受けた場合、いったい何をすべきなのでしょうか。本章では、ご家族が事故で意識不明の状態になってしまった場合に、まず家族ができることを解説します。
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(1)適切な治療に専念できるようにする
当たり前のことですが、まず大切なのは治療です。意識障害は、ほとんどの場合、頭部に大きな衝撃を受けること(頭部外傷)によって生じます。その頭部外傷によって、脳になんらかの損傷が起きたために、意識障害が生じたと考えられるのです。
脳損傷による後遺障害は重篤なものが多く、なるべく後遺障害を残さないためには、できるだけ早期に適切な治療を行う必要があります。救急車で運ばれた場合はともかくとして、その後の診断や治療は磁気共鳴画像装置(MRI)できちんと症状を分析してくれる病院で治療を受けるべきでしょう。脳障害に強い病院の、脳神経外科の受診が望ましいです。 -
(2)細かく記録をとる
後遺障害認定を受けるとき、そして損害賠償の話になったときには、意識障害に関する記録が大いに役立ちます。もちろん、カルテや医療記録に、患者の状態の推移は記載されます。しかし、カルテ等には残らない、家族にしか気づけない変化が重要になることもあります。
ささいなことでもいいので、本人の変化を記録することが大事です。ご家族による手書きの記録も、十分な証拠能力を持ちます。また、後になって保険会社等に詳細を聞かれても、具体的な日付までは覚えていないこともよくあります。その記憶や記録があるかないかで、賠償の額が大きく異なることがありますから、ぜひとも、記録をとって残しておくようにしましょう。
2、加害者との示談交渉は、被害者家族が行えるのか?
交通事故の示談交渉は、本来であれば事故の被害者となった本人が行うのが原則です。ところが、事故が重く被害者が意識不明になってしまった場合には、被害者本人が示談交渉を行うことができません。さらに、代理人を選ぶ権利も被害者本人だけが持っています。ということは、意識不明となっている場合には、代理人を選ぶことさえ本人にはできないということになります。
しかし、この原則を貫くと、救済の必要性が高いにもかかわらず、意識障害であるから、逆に示談ができないという状態に陥ってしまいます。このような問題を解決するため、次のような制度が準備されています。詳しくみていきましょう。
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(1)代理請求制度の利用
被害者が意識障害などになった場合に、一定の近親者が保険金等を請求できる制度です。被保険者と同居する、または生計を一にする配偶者や、三親等内の親族などに認められています。いわば、救済的な手段であり、あくまで保険金の請求に限って認められる制度です。
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(2)成年後見の申立
成年後見人とは、判断能力が著しく低下した方の財産保護や権利行使などをする人のことを指します。成年後見というと、認知症などの高齢者のためのものというイメージがあるかもしれませんが、事故や病気で脳に損傷が残り意識障害となった人、物事の判断能力が著しく低下した人など、若い方でも成年後見の制度を利用している人は少なくありません。
成年後見人は、家庭裁判所が選任し、親族などの信頼できる人が後見人として選ばれることが多いです。ただ、交通事故で賠償や示談が予定されている場合には、この権利をきちんと行使して、しっかりとした賠償を得ることが重要になってきます。そこで、賠償交渉を適切に行うことができるよう、弁護士が成年後見人として選任されることも一般的に行われています。成年後見人は、本人の代理人として示談交渉を進め、示談成立後に本人のための示談金を受けとって管理することになります。
3、交通事故で意識不明となった場合の後遺障害等級認定について
意識不明状態になった場合の後遺障害等級認定は、主に3つの場合に分けて認定されます。以下で詳しく見ていきましょう。
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(1)意識不明から回復しない場合
脳の損傷の程度によっては、十分な治療を行っても意識が回復しない場合もあります。そして、残念ながら一生涯にわたり意識を回復しない方もおられます。この状態を、医学的には遷延性意識障害といいます。この場合、全面的な介護が必要です。認定される後遺障害等級は別表第1の1級となるでしょう。
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(2)意識を取り戻したが障害が残る場合
たとえ意識が戻ったとしても、脳の損傷の程度によっては、事故前の状態には戻らず、後遺症が出る可能性があります。代表的なものとしては高次脳機能障害、まひ、てんかんが挙げられます。それぞれについて見ていきましょう。
●高次脳機能障害
高次機能障害とは、記憶障害や注意障害、社会的行動障害などの障害が残った状態です。身体能力は完全に戻っている場合も多く、ぱっと見ただけではわからないことも多いです。高次脳機能障害にもいろいろな状態や症状があり、その程度もさまざまです。
人によっては、事故前と全く別人のように変わってしまうこともあります。たとえば、落ち着きがない、ぼーっとして道に飛び出す、道順や物事を覚えられない、急に怒鳴ったり粗暴になる、言動が幼い、善悪がわからなくなり物を盗んだり異性に抱きついたりする、道具の使い方が分からなくなる(はさみが使えない、ふたの開け方がわからないなど)など、日常生活に大きな支障をきたします。
高次脳機能障害となった場合の後遺障害等級は、1・2・3・5・7・9級のいずれかとなるでしょう。
●まひ
まひも交通事故で生じることの多い後遺障害です。まひは、さまざまな部位に発生しますが、全身性のまひ、上半身まひ、下半身まひ、右半身まひ、左半身まひなど広範囲にわたるものと、身体の一部だけに生じる場合もあります。
後遺障害等級を申請し、まひと認定された場合には、その程度によって1・2・3・5・7・9・12級のいずれかとなるでしょう。
●てんかん
てんかんとは、大脳の神経細胞の過剰な興奮が原因となって、突然の意識消失やけいれん発作などの症状があらわれる脳の障害です。普段は症状が出なくても、運転中などに発作が起きると大事故につながるため、生活上の制限がある場合もあります。また、長期にわたって薬を飲む必要があることも多く、しっかりとした診断と治療が重要です。この場合も後遺症として後遺障害認定される可能性があります。 -
(3)意識不明から回復して事故前の状態に戻った場合
他方で、ある程度意識障害の状態が続いても、多くの方が意識を回復されています。意識が戻って、精神的にも肉体的にも事故の前と同じような状態に戻れば、ひとまず安心です。しかし、脳の障害は体の他の部位に比べて複雑なものです。慎重に治療や検査を続けて、医師の判断をゆっくり待つほうが良いでしょう。
もちろん、入院をしたり手術をしたりというそれまでの大変な過程については、しっかりと損害賠償請求をしていきましょう。
4、交通事故で意識不明となったときに、弁護士ができること
いわゆる軽傷であっても、事故の交渉は大変に疲れるものですし、ちょっとしたことが賠償額に影響するなど油断できないこともあります。意識障害が続くような重い場合には、さらにその負担は大きくなるでしょう。
また、後遺障害の等級によって賠償額は大きく異なります。場合によっては、金額の桁が違うくらいの差が出ることもありますので、後遺障害の申請を含めた手続きはすべてをしっかり準備したうえで行うべきです。そのような負担をご家族が全て担うのは大変すぎるというのが実際のところでしょう。弁護士などの専門家に交渉や手続きを依頼することで、被害者家族の不安や負担を大きく軽減することができます。以下で弁護士がしてくれることを具体的にご紹介します。
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(1)状況に応じた適切なアドバイスができる
被害者が意識不明になった場合、具体的な状況に応じて適切な対応をとらなければなりません。どの時点でどの検査を受けるか、どんな記録を残すか、後遺障害等級認定の申請にもっとも適切な時期、それまでにそろえるべき書類など、各ポイントを一つ一つきちんと押さえるかどうかでその後の賠償額に大きな差が出てきます。
そしてこれらのポイントは、実は事故が起きた直後からすでに始まっているのです。そのため、できるだけ早く弁護士に相談して適切なアドバイスを受けることが重要です。 -
(2)成年後見人の選任申立
被害者の意識が回復しない場合や、回復しても判断能力が不十分な場合には、その後の手続きを進めるために成年後見人の選任が必要です。しかし、この後見申立にもさまざまな書類の準備をしなければなりません。こうしたことは弁護士に相談することで速やかに進められますので、賠償だけでなく、成年後見の申し立てについてもアドバイスを求めるとよいでしょう。
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(3)後遺障害認定申請
後遺障害等級とは、交通事故で後遺障害が残った場合、その障害の程度に応じて自動車損害賠償責任保険(自賠責)から認定される等級のことです。この認定を何級で取得するかによって、その後の賠償額はほぼ決まるといっても過言ではありません。
後遺障害等級認定を受けるためには、後遺障害を認定している損害保険料率算出機構における自賠責損害調査事務所に申請を行う必要があります。この申請手続きについて等級認定に詳しい弁護士に依頼することで、適切な等級認定になる確率を高めることができるのです。同じ程度の症状でも、認定される等級が異なることはよくあります。しっかり準備して実態に応じた等級認定を受けることが大切です。 -
(4)示談交渉の代理
弁護士に依頼するメリットはなんといっても、示談交渉の代理人として活動することで適切な賠償額を獲得できることでしょう。
交通事故の慰謝料の計算方法には、自賠責の基準、任意保険の基準、弁護士・裁判所の基準の3つがあります。このうち一番金額が高くなりやすいのは、弁護士・裁判所基準です。弁護士は、この基準をもとに加害者側と交渉や裁判をしますので、ご自身で加害者側の保険会社と交渉する場合よりも、高い金額を得る可能性が高まります。
被害者の状況をしっかり把握し、ご家族のためにも有利な交渉を進めるために、弁護士に相談することは大いに価値があるでしょう。
5、まとめ
交通事故で家族が意識不明になってしまったら、家族はさまざまな心配ごとで苦しい時間を過ごします。また、意識が回復したとしても重い障害が残ることもあり、さらに家族が長期間にわたって介護を担う場合もあるでしょう。そんな中で交渉を進めていくのは本当に大変なことです。
しかし、大変だからと言って、相手保険会社に任せていては、十分な賠償が得られずに、後悔することもありえます。まずは、交通事故の賠償に詳しい弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。弁護士は、後遺障害等級認定の申請から、成年後見人の申立、示談交渉や訴訟まで、すべての手続をサポートします。また、弁護士に依頼することで賠償金額が大幅に増える可能性もあります。
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