親の介護は子どもの義務? 介護を放棄することはできる?
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親がいつまでも健康でいてくれればいいのですが、高齢になると、なかなか周囲の支えなしでは生活が難しくなり、介護が必要となります。
日本人の平均寿命と健康寿命との比較から導かれる介護期間は、男性で約10年、女性で約13年ともいわれています。
このように親の介護は長期にわたることも多く、金銭的な負担も少なくありません。そのため、子どもが複数いる場合には、兄弟姉妹で協力して介護することが望ましいでしょう。
しかし、親の介護をめぐって兄弟姉妹間でトラブルになってしまうことも、残念ながらあります。親が遠方に住んでいるから、仕事や育児で忙しいから介護ができない、長男(長女)がやるべきだから関係ない、など、いろいろな言い分で、介護に非協力的な兄弟姉妹もいます。
浜松市において、令和元年11月の調査によると、要介護(要支援)認定者数は、38771人でした。親族内に要介護者がいる場合、当然、誰がどのようにその面倒をみるのかを考えなければなりません。
親の介護について、兄弟姉妹間での話し合いが平行線になってしまった場合には、どのように折り合いをつけたらいいのでしょうか。
今回は、親の介護に関する法律上の義務と、介護に関する兄弟姉妹間の紛争を解決する方法を弁護士がご紹介します。
1、親に対する扶養義務とは
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(1)扶養義務を負う人とは
日本の民法では、
- 一定範囲の親族同士で
- 経済上や心身上の理由などにより自力で生活することができない親族がいるとき
には、その人の支援をしなければならない、という義務を定めています。
これを「扶養義務」といいます。
民法第877条により、原則として扶養義務を負う親族の範囲は、「直系血族」と「兄弟姉妹」であると定められています。なお、特別の事情がある場合には、三親等以内の親族が扶養義務を負うこともあります。
直系血族とは、直接的な親子関係でつながっている系統のことです。つまり、父母、祖父母、子ども、孫などの関係のことです。
親の介護に即していえば、扶養義務を負うのは、子どもや孫、親の兄弟姉妹ということになります。
また、民法第752条により、夫婦間にも扶養義務(同居、協力および扶助の義務)があります。 -
(2)扶養義務の内容
扶養義務の具体的な内容としては、次の2種類が挙げられます。
①身上の面倒をみる扶養
同居して介護したり、入居する老人ホーム(介護施設)を選んだりすることです。
②経済的な支援をする扶養
要扶養者の生活にかかる費用を援助することです。
扶養義務は、原則として、②経済的な支援をする扶養をすればよいことになっています。
もっとも、扶養義務者が、同居などしながら扶養することを希望している場合には、①の方法によることもできます。
また、義務の程度としては、扶養義務を負っている人自身が、社会的地位や収入などに応じた生活ができる範囲で、生活に困っている親族を支援すればよい、と考えられています。
2、扶養する人に順番はある?
扶養義務者が複数いた場合、だれが一番多くの責任を負うことになるのでしょうか。
民法は、扶養義務者間の順位や決め方についても、定めています。
扶養義務者については、まずは当事者間で協議して決めることが想定されています。その協議がまとまらなかったときや、協議すらできなかったときには、家庭裁判所に申し立ててこれを定めてもらうことができます。
一般的には、扶養義務の順位は、直系血族のほうが、兄弟姉妹よりも優先されるとされています。そして、直系血族の間ではより血縁の近い者が、優先的に扶養義務を負うと考えられます。
3、扶養できない場合はどうするべきか
扶養義務があると定められてはいても、経済的に難しいということもあるでしょう。扶養義務は放棄することはできるのでしょうか。また、扶養義務者がいない場合はどうなるのでしょうか。
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(1)扶養できる人がいない場合
上の章でも述べましたが、扶養義務は、自分の生活を脅かしてまで負う必要はない、と考えられています。
仮に義務を負っていても、扶養のための支援を行えば自身の生活が立ち行かないという場合には、扶養義務を負いません。
そのような場合は、特別養護老人ホームを利用したり、生活保護などを利用したりすることを検討することになります。ケアワーカーや社会福祉士などと相談し、要扶養者の状況に応じて、対応していきましょう。 -
(2)親との不仲を理由に、義務を放棄できるか
では、経済的に余力はあるものの、親とは不仲で関わりたくないから、扶養義務を放棄する、ということはできるのでしょうか。
この場合には法律上、扶養義務を放棄することはできません。過去にどのようなことがあったとしても、扶養義務を負う親族であることは変えられないのです。 -
(3)扶養する・しないと相続は関係ある?
被相続人を介護した・しなかったということは、直接的には相続に影響しません。
ただし、扶養した人が、自己の財産を投じて親の財産の維持や増加に貢献した場合には、「寄与分」(民法第904条の2)として考慮されることはあります。
4、話し合いで解決できない場合は裁判所へ
扶養の程度または方法について、当事者間で話がまとまらない場合には、管轄の家庭裁判所に対して、調停を申し立てましょう。
調停とは、当事者同士の話し合いだけではトラブルが解決できない場合に、裁判所の調停委員が双方の話を聞き、双方の合意点を探る手続きです。
扶養の程度や方法だけでなく、扶養料の支払いや、複数の扶養義務者がいる場合の順位を指定する、といった申し立てなどもできます。
●申し立てができる人
この調停を申し立てることができるのは、扶養される権利がある人(たとえば要介護状態の親)と、扶養する義務がある人(たとえば要介護状態の親の子ども)です。
●実際の調停の流れ
実際の調停の手続きでは、それぞれの扶養義務者の経済状況や生活状況、扶養してもらう人の意向などを、調停委員が聴取します。
また、必要に応じて、それらの事情の裏付けとなる資料を提出することがあります。
調停の進行を踏まえて、調停委員が解決案を提示したり、解決のために必要なアドバイスをしたりしてくれることがあります。このような流れを経て、当事者で妥協できる案があるかを検討します。
調停において、当事者間で合意を形成することができなかった場合には、調停は「不成立」となります。調停が不成立となった場合には、原則として自動的に「審判手続」が始まります。
●調停不成立の場合は、審判手続へ
審判手続とは、話し合いとしての性質が強い調停と異なり、裁判官が、当事者から提出された証拠など、さまざまな資料に基づいて判断を下す手続きです。
審判で下された決定に対して不服があるときは、2週間以内に不服を申し立てることによって、上級の裁判所に審理を持ち込むことも可能です(これを「即時抗告」といいます。)。
5、まとめ
今回は、扶養義務の具体的な内容や、扶養義務の順位、扶養について争いになった場合の解決方法について解説いたしました。
扶養に関するトラブルは、身内同士の争いであるということもあり、感情的なもつれも相まって、深刻な対立となってしまうことも多くあるでしょう。
そのような場合は、弁護士などの第三者を利用することで、話し合いが前に進むことがあります。弁護士を間に挟むことで、相手方に直接接触しなくて済むようになりますので、精神的な負担も軽減することもできます。
親の介護について、兄弟姉妹などの他の親族が協力してくれない、話がまとまらないなどのお悩みがありましたら、ぜひベリーベスト法律事務所 浜松オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています