債務整理をしたら生命保険は解約になる? 整理後に加入したい場合は?
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2020年度に浜松市の「浜松市くらしのセンター」に寄せられた消費生活相談の件数は、3391件でした。中には、借金返済にまつわる債務整理の相談もあったのではないでしょうか。
債務整理は、手続きの種類によっては、債務者の財産が処分されてしまうことがあります。特に生命保険に加入している場合、債務整理によって生命保険が強制解約となり、家族に迷惑をかけるのではないかと不安になる場合があるかもしれません。
今回は、債務整理をしたら生命保険が解約になるのかどうか、また債務整理後に生命保険へ加入することはできるのかどうかなどについて、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和2年度 浜松市くらしのセンター消費生活相談の概要」(浜松市)
1、債務整理の種類
債務整理には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があり、生命保険に関する取り扱いも、各手続きに応じて異なります。
まずは3種類の債務整理について、各手続きの概要を確認しておきましょう。
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(1)任意整理
「任意整理」とは、債権者との交渉により、債務の減額や返済期日の変更を取り決める手続きです。
主に将来発生する利息と遅延損害金をカットし、さらに月々の返済額を無理のない範囲に調整することで、債務負担の軽減を図ります。
任意整理の大きなメリットは、裁判所を通さない手続きであるため、柔軟・迅速に債務負担を軽減できる可能性がある点です。
また、対象となる債務を選べるため、保証付きの債務を除外するなどして、保証人へ迷惑がかかる事態を回避することもできます。財産の処分が不要である点も、任意整理のメリットです。
その一方で、元本のカットは認められないのが一般的であるため、債務の減額幅は他の債務整理手続きに劣る点がデメリットと言えます。また、任意整理を成立させるためには、個々のカード会社や銀行など、それぞれの債権者から同意を得なければなりません。 -
(2)個人再生
「個人再生」とは、裁判所の個人再生手続きを通じて、債務の減額や返済期日の変更を取り決める手続きです。
債権者の決議・裁判所の認可を経た「再生計画」に基づき、元本を含めた債務を大幅に減額したうえで、原則として3年間で残債の完済を目指します。
個人再生を利用すると、債務の総額などによりますが、任意整理よりも大幅な債務の減額が期待できます。また、担保付きのものを除いて財産の処分は不要であり、住宅ローンの残ったマイホームも処分せずに残しておける制度があります(住宅資金特別条項)。
ただし、個人再生を利用できるのは、将来にわたって安定した収入が見込める方に限られます(民事再生法第221条第1項)。 -
(3)自己破産
「自己破産」とは、裁判所の破産手続きを通じて、財産の処分と引き換えに債務全額を免除する手続きです。破産手続開始の決定時点における債務者の財産を、換価処分したうえで債権者に配当した後、非免責債権を除き、残った債務は原則すべて免除されます。
債務の全額免除が認められるのは自己破産のみであり、もっとも強力な債務整理手続きと言えます。
その一方で、一部の自由財産を除いて、債務者の財産は処分されてしまう点が大きなデメリットです。また、一部の職業については資格制限が発生するため、仕事に影響が出ないか事前に確認することも大切になります。
2、債務整理前に契約した生命保険は解約される?
生命保険に加入している場合、加入者は保険会社に対する保険解約返戻金請求権を有します。
解約返戻金請求権は、加入者の資産と評価すべきものです。もし解約返戻金請求権が処分・債権者への配当の対象になるのであれば、生命保険は解約されてしまいますが、各債務整理手続きではどのように取り扱われるのでしょうか。
任意整理・個人再生・自己破産のそれぞれについて、生命保険の取り扱いは以下のとおりです。
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(1)任意整理の場合|生命保険は解約されない
任意整理を行ったとしても、債務者が加入している生命保険が解約されることはありません。
任意整理の場合、債務者は財産を処分する必要が一切ありません。当然ながら、解約返戻金請求権についても処分の対象にならないため、生命保険を解約する必要がないのです。 -
(2)個人再生の場合|解約されないが、清算価値保障原則に要注意
個人再生を行ったとしても、任意整理と同様に、債務者が加入している生命保険が解約されるわけではありません。
個人再生を申し立てた場合、担保権が設定された財産については、手続外で担保権の実行により処分されてしまいます(民事再生法第53条第2項)。しかし、それ以外の財産は、個人再生手続きを通じて処分されることはありません。
解約返戻金請求権は担保権付きの財産ではないため、個人再生手続きによる処分の対象外です。したがって、個人再生を申し立てたとしても、生命保険は解約されずに済みます。
ただし、個人再生の場合は「清算価値保障原則」に注意する必要があります。
清算価値保障原則とは、再生計画において、債権者が破産配当よりも多くの配当を確保できる内容を定めなければならないという原則です。(民事再生法第231条第1項、第174条第2項第4号)。
後述するように、生命保険の解約返戻金請求権は、破産手続きの場合、解約返戻金の金額次第では処分・配当の対象となる場合があります。
もし債務者が生命保険に加入していて、解約返戻金請求権を有する場合、その金額が清算価値保障原則との関係で考慮され、個人再生の最低弁済額が高くなる可能性がある点に注意が必要です。 -
(3)自己破産の場合|解約返戻金の金額次第では解約される場合がある
自己破産を申し立てると、破産者が加入している生命保険の解約返戻金請求権は、解約返戻金の金額次第では破産手続きを通じて処分され、債権者への配当原資となる場合があります。
解約返戻金が少額の場合には、裁判所の判断によって自由財産の拡張が認められ、生命保険を解約せずに済む可能性があります(破産法第34条第4項)。
裁判所によって異なりますが、たとえば東京地裁では、他の保険の解約返戻金と併せて20万円以下であれば、自由財産の拡張を認める運用が行われています。
たとえば、保険料掛け捨て型の生命保険であれば、解約返戻金がゼロまたは少額のため、自己破産をしても解約されない可能性が高いでしょう。
3、債務整理後に生命保険へ加入することは可能?
債務整理によって債務の減額・免除が行われた後で、生命保険に加入したいケースもあるかと思います。
この点、債務整理後に生命保険へ加入することは、特に問題なく可能です。
債務整理をすると、個人信用情報機関のデータベースに事故情報(異動情報)が登録されます(いわゆる「ブラックリスト入り」)。ブラックリスト入りすると、金融機関やカード会社と行う与信取引(借り入れ、クレジットカード契約など)の審査に通らなくなってしまいます。
しかし、生命保険への加入は与信取引ではないため、保険会社は契約時に個人信用情報機関のデータベースを参照しません。
したがって、債務整理によってブラックリスト入りしている状態でも、生命保険に加入することはできますのでご安心ください。
4、債務整理を弁護士に相談するメリット
借金の返済が難しくなり、債務整理を検討している場合は、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
債務整理について弁護士に相談する主なメリットは、以下のとおりです。
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(1)手続きの選択についてアドバイスを受けられる
債務整理の各手続きには、それぞれ異なるメリット・デメリットがあります。そのため、債務者の置かれている状況に応じて、適切な手続きを選択することが重要です。
弁護士に相談すれば、丁寧なヒアリングによって聴き取った情報を基に、債務者の状況に適した債務整理手続きの選択について、専門的な観点からアドバイスをもらえます。 -
(2)債権者対応・裁判手続きへの対応を一任できる
債務整理を行う場合、債権者との交渉や、個人再生・自己破産の裁判手続きへの対応が、債務者にとって大きなハードルとなります。
いずれの手続きも専門的な部分があるため、自ら対応するのは非常に大変です。
弁護士には、債務整理に関して発生する債権者対応や裁判手続きへの対応を一任することが可能です。時間・労力・精神的なストレスの大幅な軽減につながるでしょう。
債務整理をご検討中の方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。
5、まとめ
債務整理には任意整理・個人再生・自己破産の3種類があるところ、任意整理・個人再生については、手続きを通じて生命保険が解約されることはありません。
これに対して、自己破産を申し立てたケースにおいて、解約返戻金が設定された積立型生命保険に加入している場合には、解約返戻金の金額次第では生命保険が解約されてしまう可能性があるので注意が必要です。
生命保険の取り扱いを含めて、各債務整理手続きには異なる特徴があるため、ご自身の状況に適した手続きを選択することが大切です。ベリーベスト法律事務所は、手続きの選択・実際の手続きの代行などを通じて、お客さまが早期・円滑に債務負担を軽減できるようにサポートいたします。
借金の返済負担が重くお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 浜松オフィスにご相談ください。
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